神経痛のうち坐骨神経痛の原因や症状はどのようなものでしょうか。また、坐骨神経痛の治療法やよく使われる飲み薬には、どのようなものがあるでしょうか。
以下で、これらについて解説します。
神経痛について
神経痛とは、末梢神経が何らかの原因で刺激を受け、痛みやしびれなどの症状が現れる病態です。神経は全身に張り巡らされているため、症状は体のあらゆる部位で起こりえます。
【主な原因】
●神経の圧迫
椎間板ヘルニアや腫瘍などによって神経が圧迫される。
●神経の炎症
帯状疱疹や糖尿病性神経障害などによる神経の炎症。糖尿病性神経障害とは、糖尿病で高血糖の状態が長く持続すると、神経(運動神経・知覚神経・自律神経)に障害が及ぶことです。
●外傷
事故や手術などによる神経の損傷
●薬剤
抗がん剤などの副作用により神経障害が起こることがあります。
●栄養不足
ビタミンB12欠乏症などによる神経障害
●遺伝
三叉神経痛など、遺伝的な要因が関与していると考えられる神経痛があります。
【症状】
●痛み
鋭い痛み、ズキズキする痛み、焼けつくような痛みなど、様々な種類の痛みが出現します。
●しびれ
ピリピリ感、チクチク感、違和感など、様々な種類がしびれが出現します。
●その他
筋肉のけいれん、脱力感、ほてりなど、様々な症状が現れることもあります。
【治療法】
原因療法と対症療法の二つがあります。
●原因療法
原因となっている病気を治療することで、神経痛の症状を改善します。痛みの原因を取り除くことを目的とし、内服薬を飲んだり、手術などを行います。
●対症療法
痛みやしびれなどの症状を和らげるための治療法です。薬物療法、理学療法、神経ブロック療法などが行われます。
対症療法は、痛みの軽減を目指し、痛み止めを飲むなどの方法によります。
回復までの時間には個人差がありますが、通常、どちらの療法も効果的です。
坐骨神経痛について
坐骨神経痛は、坐骨神経と呼ばれる、腰から足にかけて伸びる太い神経が圧迫や刺激を受けることによって起こる痛みやしびれなどの症状です。
【主な原因】
●腰部脊柱管狭窄症
脊柱管が腰の部分で狭くなり、脊柱管の中の坐骨神経が圧迫される病気です。
●椎間板ヘルニア
背骨の間にある椎間板が飛び出し、坐骨神経を圧迫する病気です。
●梨状筋症候群
梨状筋というお尻の筋肉が緊張・収縮し、坐骨神経を圧迫する病気です。
●変形性腰椎症
背骨の骨が変形し、坐骨神経を圧迫する病気です。
【症状】
●おしりから足にかけての痛みやしびれ
痛みは鋭い痛み、ズキズキする痛み、焼けつくような痛みなど、様々な種類の痛みが出現します。しびれはピリピリ感、チクチク感、違和感など、様々な種類があります。
●歩行困難
痛みが強いため、歩行が困難になることがあります。
●筋力低下
痛みのある側の足に筋力低下が現れることがあります。
【日常生活でできる対策】
●適度な運動
ウォーキングやストレッチなど、適度な運動をすることで、血行を促進し、筋肉の緊張をほぐすことができます。
●姿勢の改善
猫背などの悪い姿勢は、腰に負担をかけ、坐骨神経痛の症状を悪化させる可能性があります。
●体重管理
肥満は腰に負担をかけ、坐骨神経痛の症状を悪化させる可能性があります。
●禁煙
喫煙は血行を悪化させ、坐骨神経痛の症状を悪化させる可能性があります。
坐骨神経痛は、早めに治療を受けることで、症状を改善することができます。おしりや足に痛みやしびれがある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
坐骨神経痛の治療法
坐骨神経痛の治療法は、原因療法と対症療法の二つがあります。
【原因療法】
原因となっている病気を治療することで、坐骨神経痛の症状を改善します。坐骨神経痛の原因別の治療法は以下のとおりです。
・腰部脊柱管狭窄症~手術療法、薬物療法
・椎間板ヘルニア~手術療法、薬物療法
・梨状筋症候群~理学療法、注射療法
・変形性腰椎症~理学療法、薬物療法
【対症療法】
痛みやしびれなどの症状を和らげるための治療法です。対症療法には以下のようなものがあります。
・薬物療法
痛み止めの薬、抗炎症薬、神経ブロック薬など
・理学療法
温熱療法、マッサージ、電気療法など
・神経ブロック療法
痛みを感じる神経をブロックする注射療法
また、日常生活での注意点には以下のようなものがあります。
・長時間の立ち仕事や座り仕事は避ける
・重い物を持ち上げない
・冷えに注意する
・禁煙する
・ストレスを溜めない
坐骨神経痛の薬物療法
坐骨神経痛の薬物療法は、原因療法でも対症療法でも行われます。医師は、患者の症状や原因に合わせて、適切な薬剤を選択・処方します。
使用される主な薬剤は以下の通りです。
●痛み止め
アセトアミノフェン、ロキソプロフェン、ナプロキセンなど
●抗炎症薬
ロキソプロフェン、ナプロキセン、セレコキシブなど
●神経ブロック薬
プレガバリン、ガバペンチン、ラモトリジンなど
●筋弛緩薬
シクロベンチザミン、エペリゾンなど
●抗うつ薬
抗うつ薬は、神経障害性疼痛に対する有効性が高いです。
ノルトリプチリン、デュロキセチンなど
薬物療法の効果は、個人差が大きいため、複数の薬剤を組み合わせたり、量を調整したりしながら、最適な治療法を見つける必要があります。また、薬剤によっては眠気、めまい、ふらつき、胃腸障害などといった副作用が現れる場合があります。
副作用が出現した場合は、医師に相談しましょう。
神経ブロック療法
神経ブロック療法は、痛みを感じる神経をブロックすることで、痛みやしびれなどの症状を和らげる治療法です。主に、坐骨神経ブロックと硬膜外ブロックの2種類があります。
【坐骨神経ブロック】
坐骨神経の周辺に局所麻酔薬やステロイド薬を注射することで、神経をブロックします。効果は数時間から数日間持続し、強い痛みに対して有効です。
【硬膜外ブロック】
脊髄の硬膜外腔に局所麻酔薬やステロイド薬を注射することで、坐骨神経を含む腰部の神経をブロックします。効果は数時間から数日間持続し、広範囲の痛みに対して有効です。
神経ブロック療法は、侵襲性の低い治療法ですが、まれに副作用が現れる場合があります。主な副作用としては、頭痛、めまい、吐き気、しびれなどが挙げられます。
また、効果が持続しない場合もあります。
神経ブロック療法は、薬物療法で効果が十分得られない場合に検討されることが多い治療法です。
各種コルセット・サポーター
各種コルセット・サポーターは、腰部を固定し、神経の圧迫を軽減することで、痛みやしびれなどの症状を和らげる補助的な治療法です。主に、腰椎コルセットと骨盤ベルトの2種類があります。
【腰椎コルセット】
腰椎を固定することで、腰への負担を軽減し、痛みやしびれを和らげます。急性期の痛みに効果的です。
【骨盤ベルト】
骨盤を固定することで、腰椎への負担を軽減し、痛みやしびれを和らげます。慢性期の痛みに効果的です。
コルセット・サポーターは、症状や体型に合ったものを選ぶことが重要です。また、長時間着用し続けると、筋肉が弱化してしまう可能性があるため、医師や理学療法士の指導のもとに適切に使用する必要があります。
コルセット・サポーターは、単独で坐骨神経痛を治すことはできませんが、他の治療法と併用することで、症状を改善する効果が期待できます。
飲み薬での治療
坐骨神経痛の薬物療法でよく使われる飲み薬には、以下のようなものがあります。
プレガバリン(商品名:リリカ)、ミロガバリン(商品名:タリージェ)
●作用機序
痛みを感じる神経の興奮を抑えることで、痛みやしびれを和らげます。
●効果
他の鎮痛薬に比べ、神経痛による痛みやしびれに効果的です。特に、夜間の痛みに効果があるとされています。
●副作用
眠気、めまい、ふらつき、頭痛、便秘、体重増加など。眠気は特に多く報告されており、運転や機械操作には注意が必要です。
ビタミンB12(商品名:メチコバール、メコバラミン)
●作用機序
神経細胞の修復や維持に重要な役割を果たすビタミンB12は、神経痛の症状改善に効果があると考えられています。ビタミンB12欠乏症が坐骨神経痛の原因となっている場合にも有効です。
●効果
痛みやしびれを和らげるだけでなく、神経機能の改善にも効果が期待できます。
●副作用
ほとんどありませんが、まれにアレルギー反応が起こる場合があります。
●注意点
注射と内服薬の2種類があり、症状や体質に合わせて選択されます。糖尿病の薬を服用している方は、ビタミンB12の吸収が阻害される可能性があるため、医師に相談する必要があります。
NSAIDS(商品名:ロキソニン、ボルタレン、セレコックス、SG顆粒など)
●作用機序
炎症や痛みのもととなる物質の生成を抑制することで、炎症による痛みやしびれを和らげます。
●効果
急性の坐骨神経痛による炎症や痛みに効果的です。
●副作用
胃腸障害(胃痛、胃潰瘍、下痢など)、腎機能障害、肝機能障害など。特に、胃腸が弱い方は注意が必要です。
●注意点
長期服用は避け、症状が改善したら服用を中止する必要があります。また、高齢者や腎機能・肝機能が低下している方は、慎重に服用する必要があります。
デュロキセチン(商品名:サインバルタ)
●作用機序
脳内の神経伝達物質であるセロトニンとノルアドレナリンの働きを強め、痛みを感じる神経の興奮を抑えることで、痛みやしびれを和らげます。
●効果
抗うつ薬ですが、神経痛による痛みやしびれにも効果があります。特に、抗炎症薬やプレガバリンやミロガバリンで効果が不十分な場合に有効とされています。
●副作用
眠気、めまい、ふらつき、頭痛、便秘、尿路障害など。抗うつ薬であるため、うつ状態や自殺念慮などの精神症状が現れる可能性もあります。
●注意点
高齢者や肝機能・腎機能が低下している方は、慎重に服用する必要があります。また、他の薬を服用している方は、相互作用の可能性があるため、医師に相談する必要があります。
トラマドール(商品名:トラムセット)
●作用機序
脳内のアヘン受容体とノルアドレナリン受容体に作用することで、痛みを抑制します。
●効果
強い痛みに効果的な麻薬性鎮痛薬です。他の鎮痛薬で効果が不十分な場合に処方されます。
●副作用
眠気、めまい、ふらつき、便秘、悪心、嘔吐、呼吸抑制など。麻薬性鎮痛薬であるため、依存性や乱用のリスクがあります。
●注意点
運転や機械操作は避け、慎重に服用する必要があります。また、妊娠中・授乳中の方や呼吸器疾患のある方は服用できません。
プロスタグランジン製剤(商品名:オパルモン、リマプロストアルファデクス)
●作用機序
プロスタグランジン製剤は、プロスタグランジンという生理活性物質を体内に補充することで、様々な症状を改善する薬剤です。坐骨神経痛を含む痛み、血栓、発熱、子宮収縮など、幅広い作用を持っています。
種類としては、主に以下の2種類があります。
【天然プロスタグランジン製剤】
天然のプロスタグランジンをそのまま製剤化したものです。代表的な薬剤は、プロスタグランジンE1(オパルモン)、プロスタグランジンF2α(リマプロストアルファデクス)があります。
【プロスタグランジン誘導体】
天然のプロスタグランジンを化学的に修飾したものです。代表的な薬剤は、ミソプロストール(アルタセ)、ジルプロストロン(プロスタンディンX)があります。
●効果
血管拡張作用や神経伝達物質の放出を促進することで、痛みを和らげます。その他、血栓形成を予防・溶解、発熱促進、子宮収縮などの作用があります。
●副作用
消化器症状~吐き気、嘔吐、腹痛、下痢など
循環器症状~血圧降下、頻脈、動悸など
呼吸器症状~気管支喘息発作、呼吸困難など
その他~発熱、頭痛、めまい、不正出血など
●注意点
妊娠中・授乳中の女性は、胎児・乳児への影響がある可能性があるため、服用前に医師に相談する必要があります。また、喘息などの呼吸器疾患のある方は、呼吸困難などの副作用が出やすいので、注意が必要です。
消化器疾患のある方は、消化器症状が悪化する可能性があるため、注意が必要です。その他の薬を服用している方でも相互作用が起こる可能性があるため、医師に相談する必要があります。
漢方薬「痛散湯」
痛散湯は、麻杏薏甘湯(マキョウヨクカントウ)を処方の由来としており、これに、痛みの改善を目的として「利水消腫」の効能を持つ防已(ボウイ)が加えられた独自の処方です。
【構成生薬と効能】
麻黄(マオウ)~気道拡張作用、発汗作用、解熱作用
杏仁(キョウニン)~鎮咳作用、去痰作用
薏苡仁(ヨクイニン)~利水作用、浮腫軽減作用
甘草(カンゾウ)~鎮咳作用、解毒作用、緩和作用
防已(ボウイ)~利水消腫作用、鎮痛作用
【適応症】
坐骨神経痛などの神経痛
肩こり
腰痛
関節痛
頭痛
めまい
むくみ
冷え
痛散湯は、血行を促進し、筋肉のコリをほぐすことで、痛みやしびれを和らげる効果があります。また、利水作用によって、むくみを改善する効果もあります。
服用方法としては、煎じ薬と顆粒の2種類があります。
【副作用】
胃腸障害や発疹などが起こる場合があります。
【注意点】
以下のような方は服用を控える必要があります。
・妊娠中・授乳中の方
・体虚のある方
・胃腸が弱い方
・薬剤アレルギーのある方
痛散湯は、慢性的な痛みやしびれに効果的な漢方薬ですが、体質や症状によっては効果がない場合もあります。服用前に医師に相談し、適切な服用方法を守ることが重要です。
まとめ
神経痛は、末梢神経が何らかの原因で刺激を受け、痛みやしびれなどの症状が現れる病態です。そのうち腰から足にかけて伸びる太い神経である坐骨神経が痛むものが、坐骨神経痛です。
坐骨神経痛の治療法には、薬物療法、神経ブロック療法、コルセットやサポーターによる治療などがあります。薬物療法はよく用いられますが、様々なの飲み薬があり、また、漢方薬もよく用いられます。
坐骨神経痛の薬物療法は、疼痛を抑え、悩みを軽減するために非常に重要です。整形外科やクリニックで診断を受けた後、適切な薬が処方されます。
適切な薬を飲むことで下肢や関節に生じる痛みを抑えることが可能で、徐々に楽になることを感じる人が多いです。坐骨神経痛の治療は、医療機関へのアクセスが大切で、同じような症状に悩む人々にとって適切な診断と治療が不可欠です。