神経痛一般の原因、症状、治療法は、どんなものでしょうか。また、神経痛の一つである坐骨神経痛では、原因や治療法そして応急処置は、どのようになっているでしょうか。
目次
神経痛一般の原因と症状
神経痛は、神経が損傷や刺激を受けることで生じる痛みを指します。この痛みは、通常、鋭い、刺すような感覚や焼けるような感覚(灼熱感)として表れ、持続的なものではなく突発的なものとして現れることがあります。
神経痛の原因は多岐にわたり、その症状や治療方法も原因に応じて異なります。
神経痛の主な原因
●物理的な圧迫や損傷
体内の神経が物理的に圧迫されたり損傷を受けたりすると、神経痛が発生することがあります。たとえば、椎間板ヘルニアや骨の変形による神経の圧迫が典型的な例です。
また、外傷や手術後の瘢痕組織が神経に触れることによって、神経痛が引き起こされることもあります。
●感染症
特定のウイルス感染が、神経に影響を与え、神経痛を引き起こすことがあります。帯状疱疹を引き起こす水痘・帯状疱疹ウイルスはその代表例で、「帯状疱疹後神経痛」として知られています。
帯状疱疹の皮疹が治癒した後も、体内にウイルスが残ることで、強い痛みが続くことがあります。
●代謝疾患
糖尿病などの代謝疾患も神経痛の原因となることがあります。糖尿病性ニューロパチーという疾患は、慢性的な高血糖が神経にダメージを与えることで起こり、手足にしびれや痛みを感じます。
●神経の炎症や疾患
自己免疫疾患やその他の原因で神経に炎症が生じることも、神経痛の一因となります。例えば、多発性硬化症は、免疫系が神経の保護層(ミエリン)を攻撃することで、神経痛を引き起こします。
●毒性物質や薬物
特定の化学物質や薬物が神経を損傷し、神経痛を引き起こすことがあります。一部の抗がん剤は、その治療効果と引き換えに神経痛を引き起こす副作用があります。
神経痛の主な症状
神経痛の症状は多様であり、主に以下のような特徴があります。
●鋭い痛み
神経痛は、通常、鋭く突き刺すような痛みとして感じられます。この痛みは、突然発生し、数秒から数分間持続することが多いです。
●焼けるような痛み(灼熱感)
多くの人は、神経痛を「焼けるように痛い」と報告します。この感覚は、特に夜間や休息時に悪化する傾向があります。
●感覚異常
神経痛がある部位では、しびれや、感覚の鈍化または激化が見られることがあります。特定の動作により痛みが誘発されることもあります。
●痺れや電気ショックのような感覚
神経痛はしばしば、電気が走るような感覚やビリビリした痺れとしても感じられます。これらの感覚は、神経が何らかの形で障害されている事を表しています。
神経痛の治療法
神経痛の治療法は、原因に応じて異なります。神経の物理的な圧迫が原因であれば、圧迫を取り除くための外科的治療が必要な場合があります。
感染症が原因の場合は、抗ウイルス薬や抗菌薬が使用されます。糖尿病性ニューロパチーの場合は、血糖値のコントロールが不可欠です。
痛みの管理には、一般に、鎮痛剤や抗けいれん薬、抗うつ薬などが利用されます。また、理学療法や作業療法も有効な場合があるのでおすすめです。
場合によっては、神経ブロックや神経刺激療法といった治療が行われることもあります。神経痛は、日常生活に大きな影響を与えることがありますので、早期の診断と適切な治療が重要です。
坐骨神経痛の原因と症状
坐骨神経痛は、主に腰部の神経が圧迫されることで生じる痛みやしびれのことです。坐骨神経痛の代表的な原因として、腰椎椎間板ヘルニアと腰部脊柱管狭窄症があります。
これらの病気は、腰椎の問題によって背中やおしり、脚に痛みを引き起こすことが多いです。腰椎椎間板ヘルニアは、椎間板が脊柱から伸びて神経を圧迫する症で、腰部脊柱管狭窄症は、脊柱の通りが狭くなり神経を圧迫する病気です。
生活習慣や仕事での姿勢が悪いと、これらの病気が早く進行する可能性が高まります。整形外科などの病院を早く受診して相談することが大切です。
注射や手術が必要な場合もありますが、梨状筋症候群などの比較的い軽い症状の場合は、リハビリや運動療法が可能となることもあります。良い姿勢を続け、定期的に健康の確認チェックを行うことが、予防と対策につながります。
以下では、これらの疾患のメカニズムと症状について詳しく説明します。
腰部椎間板ヘルニアのメカニズムと症状
【メカニズム】
腰部椎間板ヘルニアは、背骨(脊椎)の間にある椎間板が損傷し、その内部にある髄核が外に飛び出す状態を指します。この飛び出した髄核が周囲の神経を圧迫することで、痛みやしびれが生じます。
椎間板は、背骨を支えつつ、動きを柔軟にするためのクッションの役割を果たしています。しかし、加齢や過度な負荷、繰り返しの動作などによって、椎間板の外側の繊維輪が破れ、内部の髄核が外に漏れ出ることがあります。
【症状】
腰部椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛の主な症状は、腰から足にかけての痛みやしびれです。これらの症状は、坐骨神経の圧迫される部位や程度によって異なってきますが、典型的には、以下の症状が見られます:
●腰痛
最初に感じることが多い症状で、腰部に鋭い痛みを感じることがあります。
●下肢の痛みやしびれ
坐骨神経が圧迫されるため、腰から臀部、太もも、さらにはふくらはぎや足にかけて痛みやしびれが広がります。この痛みは、座ったり立ち上がったりすると悪化することが多いです。
●筋力低下
症状が進行すると、圧迫されている神経が支配する筋肉の力が弱まり、足に力が入りにくくなることがあります。
●感覚異常
足の感覚が鈍くなったり、逆に敏感になったりすることがあります。触れるだけで痛みを感じる場合もあります。
腰部脊柱管狭窄症のメカニズムと症状
【メカニズム】
腰部脊柱管狭窄症は、脊柱管(脊髄や神経根が通る空間)が狭くなる状態を指します。これにより、神経が圧迫され、痛みやしびれが生じます。
脊柱管が狭くなる主な原因は、加齢に伴う変化です。具体的には、椎間板の変性、椎骨の変形、靭帯の肥厚などによって脊柱管が狭くなり、神経根や脊髄が圧迫されます。
【症状】
腰部脊柱管狭窄症による坐骨神経痛の症状は、腰部椎間板ヘルニアと一部共通していますが、いくつかの典型的な症状もあります。
●間欠性跛行(かんけつせいはこう)
歩行中に歩くのが困難になるほど痛みやしびれが強くなるが、しばらく休むと症状が軽減し、再び歩けるようになるというものです。これは、腰部脊柱管狭窄症の典型的な症状の一つです。
●下肢のしびれや痛み
腰から足にかけて痛みやしびれがあり、特に歩行や立ちっぱなしで症状が悪化することが多いです。前かがみになると脊柱管が広がり、症状が軽減することがあります。
●腰痛
脊柱管の狭窄が進行することで腰痛が生じることがあります。
●筋力低下や感覚異常
圧迫されている神経が長期間にわたり影響を受けると、足の筋力低下や感覚異常が進行することがあります。
腰部椎間板ヘルニアと腰部脊柱管狭窄症はいずれも坐骨神経痛を引き起こす主要な原因です。腰部椎間板ヘルニアは、急性の鋭い痛みが特徴で、腰部脊柱管狭窄症は、間欠性跛行がその典型的な症状です。
これらの症状が現れた場合、早めに医師の診断を受けることが重要です。
坐骨神経痛の治療法
坐骨神経痛の治療法は、原因や症状の重症度によって異なります。治療の目的は、痛みやしびれを軽減し、日常生活の質を向上させることです。
治療法は大きく分けて、保存的治療、薬物療法、理学療法、そして手術療法の4つに分類されます。
保存的治療
●休養と姿勢の改善
軽度の坐骨神経痛の場合、まずは安静にすることが勧められます。無理な動作や姿勢を避け、腰にかかる負担を減らすことが重要です。
また、正しい姿勢を保つことも症状の改善に役立ちます。特に腰部に負担をかけるような長時間の座位や前屈姿勢は避け、腰を支えるクッションを使用したり、椅子の高さを調整したりすることで負担を軽減できます。
●温熱療法と冷却療法
痛みが強い場合には、温熱療法や冷却療法が有効です。温熱療法は、筋肉の緊張を和らげ血流を促進するため、慢性的な痛みに適しています。
急性の痛みや炎症の場合には、冷却療法の方が痛みを抑える効果があります。
薬物療法
●鎮痛剤
軽度から中度の痛みには、一般的な鎮痛剤(アセトアミノフェンやNSAIDsなど)が使用されます。これらの薬は痛みを軽減し、炎症を抑える効果がありますが、胃腸障害等の副作用が心配されるので、長期間の使用は避けるべきです。
●筋弛緩剤
筋肉の緊張が原因で神経が圧迫されている場合、筋弛緩剤が処方されることがあります。これにより、筋肉の緊張を和らげ、神経への圧迫を軽減します。
●神経障害性疼痛治療薬
特に神経が圧迫にとどまらず損傷されている場合、抗うつ薬や抗けいれん薬が処方されることがあります。これらの薬は、神経痛特有の焼けるような痛みやしびれに効果があり、神経の過敏性を抑制します。
理学療法
●ストレッチとエクササイズ
理学療法は、坐骨神経痛の治療において非常に重要です。理学療法士によって指導されるストレッチやエクササイズは、筋肉の柔軟性を高め、腰部や臀部、下肢の筋力を強化します。
これにより、神経の圧迫は緩和され、痛みの軽減が期待できます。特に、ハムストリングス(お尻の付け根から太もも及び膝の裏側にある筋肉)や腰部のストレッチは効果的です。
●マッサージと手技療法
マッサージや手技療法(カイロプラクティックやオステオパシーなど)は、筋肉の緊張を緩和し血流を改善することで、痛みの軽減に寄与します。これらの治療は、神経の圧迫を直接取り除くわけではありませんが、症状の緩和を助けます。
●物理療法
電気療法(TENS療法)や超音波療法などの物理療法も、痛みを軽減するために使用されます。これらの療法は、神経の興奮を抑え、筋肉の緊張を和らげる効果があります。
●その他
理学療法では治療とともに予防も目的とします。痛みが出る前に、日常生活で注意するべきことがあります。
立っているときや座っているときには、体の姿勢をしっかりと保ち、特に首や腰への負担を減らすことが大切です。日常的に行うべきことの一つは、軽い運動を続けることです。
例えば、ウォーキングやスイミングなど、負担が少なく全身を動かせる運動を取り入れることで、筋肉を強化し、同じ問題が再発する可能性を減らせます。
こうした予防的なアプローチが、坐骨神経痛の再発を防ぐ鍵となります。
手術療法
保存的治療や薬物療法を行っても症状が改善しない場合や、神経の圧迫が重度で日常生活に大きな支障をきたしている場合には、手術が考慮されます。典型的な手術には、腰部椎間板ヘルニアの摘出手術や、腰部脊柱管狭窄症に対する減圧手術があります。
●腰部椎間板ヘルニア手術
ヘルニアが原因で坐骨神経痛が生じている場合、飛び出した髄核を取り除く手術(椎間板摘出術)が行われます。これにより、圧迫されている神経が解放され、症状が改善します。
●腰部脊柱管狭窄症手術
脊柱管狭窄症が原因の場合、狭くなった脊柱管を広げる手術(脊柱管減圧術)が行われます。この手術により、神経への圧迫が解消され、症状が軽減します。
坐骨神経痛の応急処置
坐骨神経痛の応急処置として、「冷やす」、「温める」、「ストレッチ」、「マッサージ」、そして「ツボ療法」が効果的です。これらの方法は、痛みやしびれを一時的に軽減し、症状の悪化を防ぐために用いられます。
以下にそれぞれの方法について説明します。
冷やす(アイシング)
●メカニズムと効果
坐骨神経痛が急に発症した場合で、痛みが鋭い場合には、患部を冷やすことが効果的です。冷却は、血管を収縮させて血流を抑制し、炎症や腫れを軽減する作用があります。
また、神経の興奮を鎮める効果もあり、痛みを和らげます。
●実施方法
アイスパックや冷却シートを使用して、痛みのある部位を10〜15分間冷却します。ただし、直接肌に冷たい物を当てると凍傷のリスクがあるため、タオルなどで包んでから使用することが推奨されます。
この処置は、発症から48時間以内に有効とされています。
温める(温熱療法)
●メカニズムと効果
急性期を過ぎた後や慢性的な坐骨神経痛に対しては、患部を温めることが効果的です。温熱療法は、血行を促進し、筋肉の緊張を緩和します。
これにより、神経の圧迫が軽減され、痛みが和らぐとともに、筋肉の柔軟性が向上します。
●実施方法
ホットパックや温湿布、湯たんぽを使用して、痛みがある部位を20〜30分間温めます。また、お風呂に入れば、全身を温めることができ、一層効果的です。
ストレッチ
●メカニズムと効果
ストレッチは、坐骨神経痛の緩和に非常に効果的です。筋肉が硬くなっていると神経を圧迫しやすいため、柔軟性を高めることが重要です。
特に、腰部や臀部、太ももの裏側(ハムストリングス)の筋肉をストレッチすることで、神経の圧迫を和らげることができます。
●実施方法
坐骨神経痛を解消する代表的なストレッチを以下に紹介します。
<ハムストリングスのストレッチ>
座った状態で片足を前に伸ばし、腰を前に曲げるようにして、伸ばした足のつま先に手を伸ばします。もう一方の足は膝を曲げてリラックスさせておきます。
これを左右交互に行い、各10〜15秒間キープします。
<腰回りのストレッチ>
仰向けに寝て、片膝を胸に引き寄せ、この状態を数秒間キープした後、元に戻します。反対側の膝も同様に行います。
このストレッチは、腰部と臀部の筋肉を柔らかくし、神経の圧迫を軽減します。
マッサージ
●メカニズムと効果
マッサージは、筋肉の緊張をほぐし、血流を改善することで、痛みを和らげる効果があります。特に、臀部の大殿筋や梨状筋といった深層筋(身体の奥深いところに位置する筋肉)の緊張を緩和することで、坐骨神経の圧迫を軽減します。
●実施方法
一人で行う場合は、テニスボールなどを使って、床に座り、ボールを痛みのある臀部の下に置き、体重をかけてゆっくりと転がす方法があります。また、プロのマッサージ師による施術も効果的で、専門的な技術を用いて筋肉の緊張を緩和してくれます。
ツボ療法
●メカニズムと効果
ツボ療法は、東洋医学に基づく治療法であり、特定のツボを刺激することで、坐骨神経痛の痛みを和らげることができます。ツボを刺激することで、神経の働きを整え、痛みの緩和や筋肉の緊張を解消する効果があります。
●坐骨神経痛に効果的なツボ
<環跳(かんちょう)>
臀部にあるツボで、腰から足にかけての痛みを和らげます。お尻の中央よりやや外側で、横向きに寝たときに一番高くなる部分に位置します。
<承扶(しょうふ)>
大腿部の裏側、臀部との境界に位置するツボで、坐骨神経痛に伴う脚のしびれや痛みを和らげます。
<委中(いちゅう)>
膝の裏にあるツボで、腰痛や坐骨神経痛に効果があります。指で軽く押して刺激します。
まとめ
神経痛は、神経が損傷や刺激を受けることで生じる痛みですが、その主な原因には、神経の物理的な圧迫や損傷、感染症、代謝疾患などがあります。主な症状としては、鋭い痛み、焼けるような痛み、感覚異常などがあり、治療法は、原因によって異なってきます。
神経痛の一つである坐骨神経痛では、腰部椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症が主な原因となっており、その治療法には、保存的治療、薬物療法、理学療法、手術療法があります。
坐骨神経痛の応急処置としては、冷やす、ストレッチ、マッサージ、ツボ療法などがあり、これらの方法は、痛みやしびれを一時的に軽減し、症状の悪化を防ぎます。