この記事は「セルフケア整体 院長・森下 信英(NOBU先生)」の監修のもと作成されています。
手や指に痛みやしこりを感じて「これは腱鞘炎?それともガングリオン?」と疑問に思っている方も多いのではないでしょうか。腱鞘炎は腱鞘の炎症による痛みが主症状となる可能性が高く、ガングリオンは関節や腱鞘にできるゼリー状のしこり(腫瘤)が特徴的です。どちらも手や指の腱鞘に関わる疾患ですが、病態・症状・治療法が大きく異なります。この記事では、両者の違いを明確にし、適切な診断と治療選択のポイントを専門家の視点から詳しく解説いたします。
目次
腱鞘炎とガングリオンの基本的な違い
腱鞘炎とは何か?
腱鞘炎は、腱を包む腱鞘という組織が炎症を起こす疾患です。腱とは、筋肉と骨をつなぐ線維状の組織で、腱鞘は腱が滑らかに動くためのベルト通しのような役割を果たしています。また、使いすぎや繰り返し動作により腱鞘が炎症を起こすと、指の曲げ伸ばしで痛みや引っかかりが生じる可能性があります。
さらに、腱鞘炎は女性に多く発症する傾向があり、特に手や指を多く使う職業の方や、妊娠・更年期のホルモン変化の影響を受けやすいことが知られています。
ガングリオンとは何か?
一方、ガングリオンは、関節や腱鞘の周囲にできる袋状の腫瘤です。この袋の中には、関節液や滑液が濃縮されたゼリー状の物質が入っています。多くは良性の腫瘤で、手首の甲側や指の付け根にできやすく、硬いしこりとして触れることができる傾向があります。
しかし、ガングリオンの原因は完全には解明されておらず、関節包や腱鞘からの滑液の漏出が関与していると考えられています。また、無症状の場合も多く、約半数は自然に治ることもあります。
比較項目 | 腱鞘炎 | ガングリオン |
---|---|---|
病態 | 腱鞘の炎症性疾患 | 袋状の腫瘤形成 |
主な症状 | 痛み、腫れ、動きの制限、しびれ | 硬いしこり、圧迫感、時に痛み |
好発部位 | 指の付け根、手首、手関節 | 手首の甲側、指の関節付近 |
触診所見 | 腫れ、熱感、圧痛 | 硬い瘤状の腫れ |
再発の可能性 | 使いすぎで再発しやすい | 摘出術後も再発の可能性あり |
腱鞘炎・ガングリオンの症状の違いと見分け方
腱鞘炎の症状
腱鞘炎の症状として、以下のような特徴が挙げられます。これらの症状は、日常生活に大きな支障をきたす可能性があるため、早期の適切な診断が重要です:
- 動作時の痛み:指を曲げ伸ばしする際の痛みや引っかかり感(ばね指現象)
- 朝のこわばり:起床時に指がうまく動かない状態が続く
- 圧痛:指の付け根や手首を押すと強い痛みを感じる
- 腫れ:炎症による軽度から中等度の腫れが生じる可能性
- しびれ:神経圧迫による指先のしびれや感覚異常(まれ)
- 機能障害:握力低下や細かい作業が困難になる
腱鞘炎は使いすぎが主な原因となりますが、女性に多く、特に手や指を多く使う職業の方に発症しやすい傾向があります。また、妊娠中や更年期のホルモン変化も発症に関与している可能性があります。
ガングリオンの症状
ガングリオンの症状には、以下のような特徴があります。そのため、これらの症状を感じた場合は、整形外科での検査を受けることをお勧めします
- 硬いしこり:米粒大からピンポン玉大の硬い腫瘤が触れる
- 可動性:皮膚の下で動く(関節包につながっている場合は固定)
- 圧迫感:周囲組織を圧迫することによる違和感や不快感
- 神経症状:神経を圧迫した場合のしびれや痛み、運動障害
- 無症状:約半数は痛みがなく、外見上の問題のみ
- サイズ変化:関節の動きや使用頻度により大きさが変わることがある
ガングリオン・腱鞘炎の原因と発症メカニズム
腱鞘炎の原因
腱鞘炎の主な原因は以下の通りです。また、これらの要因は複合的に作用することが多く、日本整形外科学会でも詳しく解説されています:
- 使いすぎ(オーバーユース):手や指の繰り返し動作による機械的刺激
- 加齢による変化:腱鞘の柔軟性低下と組織の変性
- ホルモンの影響:妊娠・出産・更年期におけるホルモン変化
- 基礎疾患:糖尿病、関節リウマチ、甲状腺疾患など
- 外傷:手首や指の外傷による二次的な炎症
- 職業的要因:キーボード作業、楽器演奏、手工業など
ガングリオンの原因
ガングリオンの発生原因について、現在のところ明確には解明されていませんが、以下の要因が関与していると考えられています:
- 関節の使いすぎ:関節や腱鞘への過度な負荷による滑液の漏出
- 外傷:関節包や腱鞘の微細な損傷
- 先天的要因:関節包の構造的な脆弱性や異常
- 性別・年齢:20~40代の女性に多い傾向(約3:1の比率)
- 関節の構造異常:関節包の一部が袋状に突出する現象
- 滑液の性状変化:関節液の粘性増加や成分変化
整形外科での診断方法と検査
整形外科での診断プロセス
適切な診断のためには、整形外科専門医による詳細な診察と必要に応じた画像検査が重要です。そのため、症状がある場合は早期に信頼できる整形外科医を受診することをお勧めします。
身体所見による診断
- 視診:腫れ、変形、しこりの有無、皮膚の色調変化を確認
- 触診:圧痛、硬さ、可動性、温度、脈拍の有無を評価
- 機能検査:関節可動域、筋力テスト、握力測定
- 誘発テスト:特定の動作での症状再現、ばね指テスト
- 神経学的検査:感覚検査、反射検査、神経伝導速度測定
画像検査
- 超音波検査(エコー):腱鞘の厚み、ガングリオンの内容物と血流確認
- MRI検査:詳細な軟部組織の評価、関節包との連続性確認
- レントゲン検査:骨の異常や関節変形、石灰化の除外
- 穿刺検査:ガングリオン内容物の性状確認(必要に応じて)
腱鞘炎・ガングリオンの治療法の選択肢
腱鞘炎の治療法
保存的治療
まず、以下の保存的治療から開始することが一般的です。また、治療方法の詳細については、専門医と十分に相談することが大切です:
- 安静・固定:副子やサポーターによる患部の安静、日帰り可能な処置
- 薬物療法:非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の内服・外用
- 注射療法:ステロイド注射による炎症抑制、局所麻酔併用
- 理学療法:ストレッチ、温熱療法、超音波治療
- 作業療法:日常生活動作の指導、道具の工夫
手術治療
保存的治療で改善しない場合、腱鞘切開術を行います。日帰り手術で可能で、局所麻酔下で腱鞘を切開し、腱の滑走を改善する可能性があります。また、手術費用や保険適用についても事前に確認しておくことが大切です。
しかし、手術後も再発の可能性があるため、術後の生活指導や定期的なフォローアップが重要となります。
ガングリオンの治療法
経過観察
無症状のガングリオンの場合、約半数は自然に治ることもあります。そのため、定期的な経過観察を行い、症状の変化を確認します。
穿刺吸引
- 方法:注射器と針でガングリオン内容物を吸引
- メリット:外来で簡単に実施可能、侵襲性が低い
- デメリット:再発率が高い傾向(約50~80%)
- 適応:症状が軽度で、患者の希望がある場合
手術治療
再発を繰り返す場合や、神経圧迫症状がある場合は手術を検討します。ガングリオン摘出術では、袋状の腫瘤を根部まで完全に切除することで再発リスクを最小限に抑える可能性があります。
また、手術は日帰りまたは短期入院で行われ、局所麻酔下での施術が一般的です。術後の機能回復には個人差がありますが、多くの場合で良好な予後が期待できます。
専門家が教える腱鞘炎・ガングリオンの予防法と日常生活での注意点
腱鞘炎の予防法
腱鞘炎の予防には、以下の点に注意することが重要です。また、効果的な予防ストレッチ方法を日常的に取り入れることをお勧めします:
- 適度な休息:手や指を多く使う作業の合間に定期的な休憩を取る
- 正しい姿勢:パソコン作業時の手首の角度と肩の位置に注意
- ストレッチ:定期的な手首・指のストレッチと関節可動域訓練
- 道具の工夫:握りやすい道具の使用、エルゴノミクス対応器具
- 環境整備:作業環境の改善、照明や机の高さ調整
- ウォーミングアップ:作業前の手指の準備運動
ガングリオンの予防法
ガングリオンの明確な予防法は確立されていませんが、以下の点に注意することが推奨されます:
- 関節への負荷軽減:過度な手首の使用や無理な姿勢を避ける
- 外傷予防:スポーツ時の手首保護具着用、安全な環境づくり
- 早期発見:しこりを見つけた場合の速やかな医療機関受診
- 関節の柔軟性維持:適度な運動と関節可動域訓練
- 全身の健康管理:基礎疾患の管理、栄養バランスの維持
いつ医療機関を受診すべきか
以下の症状がある場合は、整形外科専門医への受診を強く推奨します:
- 日常生活に支障をきたす痛みや機能障害が続く場合
- 急速に大きくなるしこりや腫れが認められる場合
- しびれや感覚異常を伴う症状が出現した場合
- 保存的治療で改善しない症状が持続する場合
- 仕事や趣味活動に著しい影響を与える症状がある場合
- 発熱や全身症状を伴う場合(感染の可能性)
- 外傷後に症状が悪化した場合
早期診断・早期治療により、多くの場合で良好な予後が期待できます。症状を我慢せず、専門医に相談することが大切です。特に、症状が長期間続く場合や日常生活に支障をきたす場合は、迷わず受診してください。
さらに、適切なクリニックの選び方についても事前に確認しておくことで、より良い治療を受けることができます。
腱鞘炎とガングリオンに関するよくある質問
Q. 腱鞘炎とガングリオンは同時に発症することはありますか?
A. はい、同時に発症する可能性があります。ガングリオンが腱鞘を圧迫することで腱鞘炎を引き起こしたり、腱鞘炎による炎症が関節包に影響してガングリオンが形成されることがあります。症状が複雑な場合は、専門医による詳細な診察が必要です。
Q. ガングリオンは放置しても自然に治りますか?
A. ガングリオンの約半数は無症状で、放置していても自然に治ることがあります。しかし、大きくなったり痛みが強くなったりする場合は治療が必要です。定期的な経過観察を行い、症状の変化に注意することが重要です。
Q. 腱鞘炎の注射治療は痛いですか?
A. ステロイド注射は局所麻酔を使用するため、注射時の痛みは最小限に抑えられます。注射後数日間は軽度の痛みや腫れが生じることがありますが、多くの場合で症状の改善が期待できます。
Q. 手術後の回復期間はどの程度ですか?
A. 腱鞘炎の腱鞘切開術では約2~4週間、ガングリオン摘出術では約3~6週間で日常生活への復帰が可能です。完全な回復には個人差がありますが、多くの場合で良好な機能回復が期待できます。
Q. 再発を防ぐためにはどうすればよいですか?
A. 腱鞘炎の再発予防には、適度な休息とストレッチが重要です。ガングリオンは完全摘出により再発リスクを下げることができますが、日常生活での手首への負荷軽減も大切です。定期的なフォローアップも推奨されます。
Q. 妊娠中でも治療は受けられますか?
A. 妊娠中は薬物療法に制限がありますが、物理療法や装具療法などの保存的治療は可能です。手術が必要な場合でも、局所麻酔下での施術により安全に行うことができます。必ず産婦人科医と連携した治療計画を立てます。
Q. どちらも女性に多いと聞きましたが、理由はありますか?
A. 女性に多い理由として、ホルモンの影響、手の構造的な違い、家事や育児による手の使用頻度の高さなどが挙げられます。特に妊娠・出産期や更年期のホルモン変化は、腱鞘や関節包に影響を与える可能性があります。