この記事は「日本身体運動科学研究所 代表理事・笹川 大瑛」の監修のもと作成されています。
五十肩の激痛や肩が上がらない症状でお悩みの方へ。五十肩の癒着を剥がす最新治療には、サイレントマニピュレーションやハイドロリリースなど専門医による5つの効果的な治療法があります。また、自宅でできる安全なセルフケアも重要です。本記事では、五十肩で起こる癒着のメカニズムから、整形外科で行われる最新治療法、症状を改善する自宅ケアまで、専門家の知見を基に詳しく解説します。適切な治療により、長期間続く五十肩の癒着による痛みや可動域制限の改善が期待できます。
目次
五十肩の激痛・動かない根本原因は「癒着」?癒着の正体を専門家が解説
五十肩(肩関節周囲炎)は40~60代の方に多く起こる疾患で、特にきっかけがなく肩に痛みが起こり、徐々に肩の動く範囲が制限されていく症状です。また、この痛みや可動域制限の主な原因の一つが「癒着」です。
さらに、癒着とは、本来別々に動くべき組織同士が炎症によりベッタリとくっついてしまった状態を指します。したがって、五十肩では以下の部位で癒着が起こりやすくなります。
癒着が起こりやすい部位 | 症状への影響 | 制限される動作 |
---|---|---|
肩峰下滑液包と周囲筋肉 | 腕を上げる動作の制限 | 洗髪、棚の物を取る |
関節包と周囲組織 | 全方向の可動域制限 | 着替え、背中をかく |
筋膜間の癒着 | 筋肉の滑走性低下 | 肩回し、腕の外旋 |
一方で、五十肩の癒着による症状は段階的に進行します。急性期では激しい痛みが主体ですが、その後の拘縮期に癒着が形成され、肩の可動域制限が顕著になります。そのため、早期の適切な診断と治療が重要です。
なぜ起こる?五十肩で肩関節が癒着する3つのメカニズム
五十肩での癒着は、複数のメカニズムが重なって発生します。また、以下の3つの要因が主な原因として考えられています。
1. 炎症による組織の変化
肩関節の関節包という部分に炎症が起きることから始まります。さらに、加齢とともに肩周辺の組織が劣化し、日常生活での負担が重なることで炎症が発生する可能性があります。
2. 不動による組織の癒着形成
一方で、痛みや安静により肩を動かさない期間が続くと、筋肉が短縮するだけでなく、腱や靭帯、神経などの軟部組織の間に癒着が生じ、滑走性が低下する傾向があります。
3. 加齢による組織の変性
そのため、40歳以降では肩関節構成体の変性を基礎として発症すると考えられています。また、糖尿病患者では10-20%に五十肩が発症するという報告もあります。
腕を上げる、頭を触る、手を背中に回すなどの日常生活動作をスムーズに行うには、筋肉と筋肉、筋肉と皮膚、筋肉と神経がなめらかに滑りあうことが重要になります。
【専門家監修】病院で行われる五十肩の癒着を剥がす5つの最新治療法
整形外科では、五十肩の癒着を剥がすための様々な専門的治療法が行われています。さらに、症状の段階や癒着の程度に応じて、以下の5つの主要な治療法が選択されます。
1. サイレントマニピュレーション(非観血的関節授動術)
サイレントマニピュレーションは、患者様の肩に麻酔をかけた状態で、医師が肩関節を動かし、関節の可動域の改善を図る治療法です。また、超音波ガイド下で肩周囲の知覚を司る頸部の神経に伝達麻酔をかけ、肩関節周囲が無痛になった状態で徒手的に癒着を剥離します。
そのため、治療時間は概ね90分程度で、日帰りで行える治療です。したがって、適応となるのは主に凍結肩(フローズンショルダー)の患者様で、原因がはっきりせず長期間肩の痛みが続いている、または肩関節の可動域に制限が起きている状態です。
2. ハイドロリリース(筋膜リリース注射)
ハイドロリリースは、文字通り水(ハイドロ)で癒着したファシアという膜を剥離(リリース)する治療法です。また、超音波(エコー)画面で異常なファシアを確認しながら、生理食塩水と少量の麻酔薬・鎮痛薬を用いてリリースし、鎮痛効果に加えてファシアの柔軟性(滑りやすさや伸びやすさ)の改善を期待する治療手技です。
さらに、時期としては炎症が治まった後の拘縮期に移った方が対象となり、神経周囲、靭帯周囲への注射により組織同士の滑走性を改善し、可動域の改善を図ります。
3. 肩甲上神経ブロック注射
局所麻酔薬で肩関節を動かせるようにし、痛みの緩和や可動域の増加を図る治療法です。また、関節内注射よりも効果が高いという研究報告もあります。
4. 鍼灸治療による筋膜リリース
筋膜と筋膜の癒着を剥がすことで痛みの原因を取り除く治療法です。さらに、トリガーポイント療法と組み合わせることで効果が期待できます。
5. 関節鏡手術(重度例)
重度の場合、関節包に切れ目を入れて可動域を拡げる手術療法です。また、炎症している滑膜をクリーニングすることも可能です。
自分でできる!五十肩の癒着を和らげる3つの安全なセルフケア
軽度の癒着であれば、自宅でのセルフケアにより症状の改善が期待できます。ただし、無理やり動かすことは絶対に避け、痛みのない範囲で行うことが重要です。
安全に行える3つのストレッチ・運動療法
以下のストレッチを痛みのない範囲で毎日継続しましょう。
運動名 | 具体的な方法 | 実施時間 | 効果 |
---|---|---|---|
外旋ストレッチ | 肘を90度に曲げドアの戸口に立ち、手のひらを柱に当て体を反対側に回旋 | 30秒間×3回 | 肩の外旋可動域改善 |
振り子運動 | 前かがみになり、患側の腕を自然に垂らして軽く振る | 1分間×3回 | 肩関節の柔軟性向上 |
棘上筋リリース | 肩甲棘の上の筋肉を横方向→縦方向の順で柔らかくなるまでほぐす | 各方向2-3分 | インナーマッスル緩和 |
セルフケアで悪化させないための4つの禁忌事項
以下の行為は症状悪化の原因となるため避けましょう。
- 無理な可動域拡大:癒着している方向への強制的な動きは炎症を悪化させる可能性があります
- 急性期の過度な運動:痛みが強い時期は安静が最優先です
- 冷やしすぎ:血流を悪化させ回復を遅らせる傾向があります
- 専門家の指導なしでの強いマッサージ:筋肉を傷める恐れがあります
五十肩の癒着を予防するために日常生活でできる3つの重要ポイント
五十肩の癒着を予防するには、温めてストレッチすることが最も大切です。また、痛みがあるからといって動かさないでいると、癒着が進んで肩関節の可動域がどんどん狭くなってしまう可能性があります。
1. 日常的な肩の可動域維持
毎日の肩回し運動や軽いストレッチを心がけましょう。特に朝起きた時と就寝前の実施が効果的です。
2. 正しい姿勢の維持
デスクワーク時の姿勢改善や、枕の高さ調整により肩への負担を軽減します 。
3. 生活習慣の改善
以下の予防ポイントを意識しましょう。
- 適度な運動習慣の維持
- ストレス管理と十分な睡眠
- 血糖値のコントロール(糖尿病の方)
- 肩を冷やさない工夫
五十肩の癒着を剥がす治療はどこで受けられる?医療機関選びの4つのポイント
五十肩の癒着を剥がす専門的治療を受けられる医療機関を選ぶ際の重要なポイントをご紹介します。
選択ポイント | 確認事項 | 期待できる治療 |
---|---|---|
肩関節専門医の在籍 | 整形外科専門医資格、肩関節治療経験 | サイレントマニピュレーション |
超音波診断装置完備 | エコーガイド下治療の実施可否 | ハイドロリリース、神経ブロック |
理学療法士によるリハビリ | 治療後のフォローアップ体制 | 運動療法、可動域訓練 |
保険診療対応 | 治療費用の確認 | 継続的な治療が可能 |
また、治療は保険診療で行えることが多く、患者様の症状や病歴を十分に評価し、最適な方法を選択することが重要です。したがって、まず日本整形外科学会や理学療法士協会で認定された専門医療機関への相談をお勧めします。
五十肩の癒着を剥がすことに関するよくある質問7選
Q. 五十肩の癒着は自然に治りますか?
A. 軽度の癒着であれば時間と共に改善することもありますが、重度の癒着では専門的な治療が必要です。症状が3ヶ月以上続く場合は整形外科への受診をお勧めします。自然治癒を待つよりも、早期治療により回復期間を短縮できる可能性があります。
Q. サイレントマニピュレーションは痛くないのですか?
A. 神経ブロック注射により肩周囲が無痛状態になるため、施術中に痛みを感じることはありません。麻酔が切れる7-10時間後には正常な感覚が戻ります。ただし、施術後2-3日は軽い痛みや腫れが生じる場合があります。
Q. ハイドロリリースの副作用はありますか?
A. 基本的に生理食塩水を注射するため、大きな副作用はありません。注射部位の軽い痛みや腫れが数日続く場合がありますが、ほとんどの場合自然に改善します。感染や神経損傷のリスクは極めて低いとされています。
Q. 治療後はすぐに日常生活に戻れますか?
A. サイレントマニピュレーションの場合、麻酔が切れるまで三角巾を着用していただきます。ハイドロリリースは当日から日常生活が可能ですが、治療後のリハビリテーションが重要です。完全回復には3-6ヶ月程度要する場合があります。
Q. 五十肩の癒着予防にはどんな運動が効果的ですか?
A. 肩回し運動、振り子運動、適度なストレッチが効果的です。特に棘上筋のリリースや肩甲骨周りの運動は予防に役立ちます。痛みがある場合は無理せず専門家にご相談ください。毎日継続することが最も重要です。
Q. どのくらいの期間で改善が期待できますか?
A. 個人差がありますが、適切な治療により数週間から数ヶ月での改善が期待できます。重度の癒着では半年から1年程度要する場合もあります。継続的な治療とリハビリが重要で、早期治療ほど回復も早い傾向があります。
Q. 糖尿病があると五十肩になりやすいのは本当ですか?
A. はい、糖尿病患者の10%から20%に五十肩が発症すると言われています。血糖コントロールを良好に保つことで、五十肩のリスクを減らすことができる可能性があります。糖尿病の方は定期的な肩の状態チェックをお勧めします。
まとめ:五十肩の癒着は適切なアプローチで確実に改善を目指そう
五十肩の癒着は、専門医による適切な診断と治療により確実に改善が期待できる症状です。また、サイレントマニピュレーションやハイドロリリースなどの最新の専門的治療から、自宅でできる安全なセルフケアまで、症状に応じた様々なアプローチがあります。
さらに、重要なのは症状の段階を正しく把握し、それに応じた適切な治療を早期に選択することです。そのため、痛みや可動域制限でお悩みの方は、我慢せずに整形外科を受診し、専門家による診断を受けることを強くお勧めします。
したがって、早期の適切な治療により、五十肩の癒着による長期間の痛みや機能制限から解放され、質の高い日常生活を取り戻すことが可能です。一人で悩まず、まずは専門家にご相談ください。