この記事は「日本身体運動科学研究所 代表理事・笹川 大瑛」の監修のもと作成されています。
椎間板ヘルニアが進行して神経を強く圧迫すると、突然トイレに行けなくなることがあります。具体的には、膀胱や直腸を支配する神経が圧迫されることで、頻尿、尿意を感じにくい、尿が出にくい、残尿感などの排尿障害や、便意を感じにくい、便秘などの排便障害が生じます。椎間板ヘルニアでトイレに行けない これらの症状は馬尾症候群と呼ばれる緊急性の高い状態の可能性があり、早急に医療機関での診断・治療が必要です。特に両足の脱力感や感覚障害を伴う場合は、48時間以内の適切な治療が永続的な障害を防ぐために重要となります。
目次
椎間板ヘルニアでトイレに行けなくなる原因と症状
椎間板ヘルニアは、背骨の間にあるクッションの役割を果たす椎間板の一部が飛び出して周囲の神経を圧迫する疾患です。この神経圧迫によってトイレに行けなくなる原因について詳しく説明します。
排尿障害が起きるメカニズム
椎間板ヘルニアにより膀胱を支配する神経が圧迫されると、トイレに関する以下のような排尿障害が現れることがあります:
- 頻尿 – 頻繁にトイレに行きたくなる
- 尿意を感じにくくなる
- 尿が出にくい(排尿困難)
- 残尿感 – 排尿後も膀胱に尿が残っている感覚
- 尿失禁 – 尿を我慢できない
特に腰椎の下部(L4-L5やL5-S1)の椎間板ヘルニアでは、膀胱と下肢を支配する神経が圧迫され、トイレに行っても排尿機能に支障をきたすことがあります。
排便障害が起きるメカニズム
直腸の神経が圧迫されると、以下のような排便障害が現れ、トイレに行けても正常な排便が困難になることがあります:
- 便意を感じにくくなる
- 便が出にくい(排便困難)
- 便秘
- 便失禁 – 便を我慢できない
- 下痢などの症状
これらの症状は椎間板ヘルニアが重症化している可能性があり、特に馬尾症候群(次の項目で説明)の症状として現れることがあります。トイレに行けない状態が続く場合は早急に医療機関を受診することが重要です。
当院の治療法である関節トレーニングを考案した笹川先生が、椎間板ヘルニアで特に問題のある症状について解説してますので、まずはこちらをご覧ください。
椎間板ヘルニアでトイレに行けない 場合に緊急対応が必要な馬尾症候群
馬尾症候群(ばびしょうこうぐん)は、腰部脊柱管内にある神経の束(馬尾神経)が強く圧迫されて生じる緊急の病態です。トイレに行けないという症状はこの馬尾症候群の重要なサインとなります。
馬尾症候群の特徴的な症状
- 突然トイレに行けなくなる(排尿・排便障害)
- 急激な両側下肢の脱力感や麻痺
- 鞍部(お尻と太もも内側)の感覚障害
- 性機能障害
馬尾症候群は医療緊急事態であり、トイレに行けないという症状が現れたら48時間以内に適切な治療を受けないと永続的な神経障害を残す可能性があります。排尿や排便のコントロールが急に困難になった場合は、すぐに救急医療機関を受診してください。
椎間板ヘルニアでトイレに行けなくなった場合の対処法
椎間板ヘルニアによってトイレに行けない、または排尿・排便障害が生じた場合の対処法について説明します。
緊急時の対応方法
トイレに行けない状態が急に生じた場合は、以下の対応を行ってください:
- できるだけ早く医療機関を受診する(可能であれば救急車を呼ぶ)
- あおむけに寝て、腰を曲げないようにする
- 自力で動けない場合は、家族や周囲の人に助けを求める
- 医療機関到着までは、おむつやポータブルトイレなどの応急的な対応を検討する
緊急通報時には「椎間板ヘルニアでトイレに行けなくなった」「両足に力が入りにくい」などの症状を具体的に伝えることが重要です。これにより適切な緊急度での対応が期待できます。
医療機関での診断と治療
医師は以下の検査を行い、椎間板ヘルニアとそれによるトイレに行けない症状の原因を評価します:
- 詳細な問診と神経学的検査
- MRI検査 – 椎間板ヘルニアの位置や大きさを確認
- CT検査 – 骨の状態を詳細に確認
- X線検査 – 脊椎の全体的な状態を確認
- 尿流動態検査 – トイレに行けない原因となる排尿機能の評価
重症度 | 症状 | 治療アプローチ | 緊急性 |
---|---|---|---|
軽度 | 軽い排尿困難、頻尿 | 経過観察、保存的治療 | 低 |
中等度 | 明らかな排尿障害、残尿感 | 薬物療法、理学療法、場合により手術 | 中 |
重度 | 排尿不能、尿閉、両足の麻痺 | 緊急手術 | 高(48時間以内) |
治療法
椎間板ヘルニアによってトイレに行けない状態の治療法は症状の重症度によって異なります:
緊急手術が必要な場合
馬尾症候群の症状がある場合や、重度の排尿・排便障害でトイレに行けない場合は、緊急手術が必要となることがあります。手術の目的は神経への圧迫を取り除くことです。主な手術方法には:
- 内視鏡下椎間板摘出術
- 顕微鏡下椎間板摘出術
- 開放的椎弓切除術
手術後は、神経の回復具合によってトイレに行けるようになるなど、排尿・排便機能が改善することが期待されます。
保存的治療
軽度の症状の場合や、手術が適さない場合は以下の保存的治療が行われることがあります:
- 薬物療法 – 抗炎症薬、筋弛緩薬など
- 理学療法 – 症状を悪化させない範囲での適切な運動
- 排尿・排便管理 – カテーテルの使用や排便補助剤
椎間板ヘルニアでトイレに行けない場合の日常生活での対応策
椎間板ヘルニアに伴い、トイレに行きづらい状態がある場合の日常生活の工夫について説明します。
トイレ環境の調整
- 自宅のトイレに手すりを設置する
- 洋式トイレへの変更や便座の高さ調整
- トイレまでの動線を確保し、障害物を取り除く
- ポータブルトイレの利用を検討
排尿・排便管理の工夫
- 定時排尿・排便の習慣づけ
- 十分な水分摂取(ただし就寝前は控える)
- 食物繊維を多く含む食事で便秘予防
- 骨盤底筋運動の実施(医師や理学療法士の指導のもと)
移動補助具の活用
- 歩行器や杖の使用でトイレまでの移動をサポート
- 車椅子の活用(一時的な使用も含む)
- 腰部サポーターの着用
これらの工夫により、トイレに行けない状態が改善し、日常生活の質が向上することが期待できます。
椎間板ヘルニアでトイレに行けなくなる症状の予防と再発防止
椎間板ヘルニアによるトイレ関連の問題の予防と再発防止には以下の点に注意しましょう:
正しい姿勢と生活習慣
- 背筋を伸ばした姿勢を心がける
- 長時間の同じ姿勢を避ける
- 重い物を持つときは膝を曲げ、腰に負担をかけない
- 適切な体重維持
- 禁煙(喫煙は椎間板の劣化を促進する)
適切な運動習慣
- 腹筋・背筋などの体幹強化エクササイズ
- ストレッチングによる柔軟性の維持
- 水泳やウォーキングなどの低負荷運動
※これらの運動は必ず医師や理学療法士の指導のもとで行い、トイレに行けない症状を引き起こさないよう注意してください。
椎間板ヘルニアでトイレに行けなくなった症例からわかる回復の可能性
椎間板ヘルニアによって突然トイレに行けなくなった患者さんの回復可能性は、症状の重症度や治療開始のタイミングによって大きく異なります。
回復のための重要なポイント
- 早期発見・早期治療 – トイレに行けない症状が現れたらすぐに医療機関を受診すること
- 適切な治療法の選択 – 症状の程度に応じた治療法を選ぶこと
- リハビリテーション – 排尿・排便機能の回復を促す専門的なリハビリ
- 定期的な経過観察 – 症状の変化を定期的に医師に報告すること
実際の症例紹介
54歳男性の事例:腰痛が1週間続いた後、突然トイレに行けなくなり、排尿困難と両足のしびれを自覚。MRI検査でL4/L5の大きな椎間板ヘルニアが確認され、発症から24時間以内に緊急手術を受けました。術後3日目から排尿機能が改善し始め、2週間後にはほぼ正常な排尿機能を取り戻しました。この事例は、トイレに行けない症状に対する早期治療の重要性を示しています。
医師に相談すべき「トイレに行けない」症状
椎間板ヘルニアに関連して、以下の「トイレに行けない」症状がある場合は、すぐに医師に相談しましょう:
- 突然の排尿困難や尿閉(尿が全く出ない)
- 突然の便失禁や排便困難
- 両足の脱力感や痺れとともにトイレに行けない
- 鞍部(股間部)の感覚低下
- 腰痛と共に生じる足の痛みや痺れの急激な悪化
これらの症状は神経の重度の圧迫を示唆している可能性があり、トイレに行けない状態を改善するためには緊急の医療対応が必要です。
まとめ:椎間板ヘルニアでトイレに行けなくなった場合の対応
椎間板ヘルニアが原因でトイレに行けない症状が出た場合は、神経の圧迫によって排尿・排便機能が障害されている可能性があります。特に両足の脱力や鞍部の感覚障害を伴う場合は馬尾症候群の可能性があり、48時間以内の緊急医療介入が必要です。
早期の適切な診断と治療がトイレに行けない状態からの機能回復のカギとなるため、症状に気づいたらすぐに整形外科や脳神経外科を受診しましょう。日常生活では、トイレ環境の調整や排尿・排便管理の工夫を行い、長期的には適切な姿勢や運動習慣を身につけることが大切です。
椎間板ヘルニアによるトイレに行けない症状は個人差が大きいため、自己判断せず必ず医療専門家に相談してください。