この記事は「日本身体運動科学研究所 代表理事・笹川 大瑛」の監修のもと作成されています。
椎間板ヘルニアでは、腰や下肢に痛みやしびれが広範囲に現れます。椎間板ヘルニアはどこが痛い か聞かれた場合、特に第4腰椎と第5腰椎の間(L4/5)では太ももの外側から足の親指にかけて、第5腰椎と仙骨の間(L5/S1)では腰の後ろ側から足の裏側にかけて痛みやしびれが生じてるケースがあります。ヘルニアの初期症状は強い腰痛ですが、進行すると下肢の痛みやしびれが主症状となります。症状が続く場合は専門医の診察が必要で、約80%の患者は保存的治療で改善が見られます。
目次
椎間板ヘルニアとは?基本的な仕組み
椎間板ヘルニアは、背骨(脊椎)の間にあるクッションの役割を果たす椎間板が変形して、中の髄核(ずいかく)が飛び出し、神経を圧迫することで痛みやしびれを引き起こす疾患です。
椎間板は以下の構造からなります:
– 髄核:中心部にあるゼリー状の柔らかい部分
– 線維輪:髄核を囲む丈夫な繊維質の層
年齢とともに椎間板は水分が減少して弾力性を失い、線維輪に亀裂が生じると中の髄核が飛び出してしまいます。この状態を椎間板ヘルニアと呼びます。特に腰椎(腰の部分の脊椎)に多く発生し、20〜40代の比較的若い年齢層でも見られます。
椎間板ヘルニアの主な症状
椎間板ヘルニアの症状は、ヘルニアの場所や程度によって異なりますが、主な症状は以下の通りです:
腰痛
椎間板ヘルニアの初期症状として、**強い腰痛**が最も頻繁に現れます。この痛みには以下の特徴があります:
– 数週間で落ち着くことが多いが、症状が続く場合は手術を検討する場合もある
– 腰を曲げると痛みが増す
– 咳やくしゃみをすると痛みが走る
– 座っている方が立っているよりも痛みが強くなることが多い
下肢の痛み・しびれ
髄核が神経を圧迫することで、下肢に様々な症状が現れます:
– お尻や太もも、ふくらはぎ、足などに痛みやしびれが出る
– 痛みは電気が走るような鋭い痛みであることが多い
– 特定の姿勢や動作で痛みが悪化する
– 坐骨神経痛と呼ばれる症状を伴うことが多い
その他の症状
症状が進行すると、以下のような症状が現れることもあります:
– 足に力が入らなくなる(筋力低下)
– 感覚が鈍くなる(知覚障害)
– 排尿障害などが起こることもある
– 長時間の歩行や立位が困難になる
ヘルニアの場所による痛みの違い
椎間板ヘルニアは発生する場所によって、痛みやしびれの出る部位が異なります。主な発生場所とその症状は以下の通りです:
L4/5(第4腰椎と第5腰椎の間)
L4/5は最も頻度の高いヘルニアの発生部位です。この部位でヘルニアが起こると:
– ふくらはぎの外側から足の親指にかけて痛みやしびれが出る
– 太ももの外側にも痛みが広がることがある
– 足の親指の筋力が低下することがある
L5/S1(第5腰椎と仙骨の間)
L5/S1も非常に一般的なヘルニアの部位です:
– 腰の後ろ側から足の裏側にかけて痛みやしびれが出る
– おしりの真ん中、太ももの裏、ふくらはぎ、かかとから足の小指に症状が出やすい
– アキレス腱の反射が弱くなり、つま先歩きができなくなることもある
L3/4(第3腰椎と第4腰椎の間)
– 太ももの前の部分が痛んだり、だるくなったり、しびれたりする
– 膝の曲げ伸ばしの力が弱くなることがある
L2/3(第2腰椎と第3腰椎の間)
– 足の付け根やそけい部が痛んだり、だるくなったり、しびれたりする
– 太ももの内側に症状が出ることもある
L1/2(第1腰椎と第2腰椎の間)
– 腰の上あたりに痛みが出ることが多い
– 下腹部に痛みが広がることもある
椎間板ヘルニアの痛みが起こるメカニズム
椎間板ヘルニアの痛みが発生するメカニズムには、主に以下の2つの要因があります:
1. 機械的要因
物理的な圧迫によって痛みが生じます:
– 飛び出した髄核が直接神経根を圧迫する
– 神経が物理的に圧迫されることで痛みやしびれが発生
– 神経の伝達が阻害され、支配領域に症状が出る
2. 化学的要因
炎症反応によって痛みが生じます:
– 髄核には炎症を引き起こす物質が含まれている
– 髄核が飛び出すと、これらの物質が周囲の神経に影響を及ぼし、炎症や痛みを引き起こす
– 炎症によって神経の感受性が高まり、痛みを強く感じるようになる
進行すると症状も変化します:
– 初期段階:腰痛が主体
– 進行段階:神経に触れると下肢痛へと変わる
– 姿勢による変化:初期は前屈で痛み増強、進行すると後屈で痛み増強
– 日常生活への影響:立っているよりも座っている方が痛みが強くなる傾向
椎間板ヘルニアの診断方法
椎間板ヘルニアの診断には、以下の方法が用いられます:
問診と身体診察
医師が症状を詳しく聞き取ります:
– 痛みの場所や種類、痛みが強まる姿勢や動作などを確認
– 神経学的検査(筋力、感覚、反射など)を行う
– 下肢伸展挙上検査(SLR)などの特殊検査を実施
画像診断
以下の検査で椎間板ヘルニアを確認します:
– MRI検査:最も有効な検査方法で、椎間板の状態や神経の圧迫の程度を詳細に観察できる
– CT検査:骨の状態を詳しく調べることができる
– レントゲン検査:基本的な骨の変形や狭窄を確認する
電気生理学的検査
神経の機能を評価する検査もあります:
– 神経伝導速度検査:神経の伝導速度を測定し、障害の程度を評価
– 筋電図:筋肉の電気的活動を記録し、神経障害による影響を評価
椎間板ヘルニアの治療法
椎間板ヘルニアの治療法は、症状の程度によって異なります。一般的には以下の治療法があります:
保存療法(非手術的治療)
約80%の患者さんは保存療法で改善するとされています:
– 安静:急性期には安静にし、痛みを和らげる
– 薬物療法:
– 消炎鎮痛剤(NSAIDs):炎症と痛みを抑える
– 筋弛緩剤:筋肉の緊張を緩和する
– 神経障害性疼痛治療薬:神経の痛みを軽減する
– 神経ブロック療法:痛みの原因となっている神経に直接薬剤を注入
– 理学療法:
– 腰部の安定性を高める体操
– 姿勢改善の指導
– 牽引療法
– コルセット:腰部への負担を軽減するためのサポート
手術療法
保存療法で改善しない場合や、神経障害が進行する場合に検討されます:
-*顕微鏡下椎間板摘出術:最小限の切開で椎間板の一部を摘出
– 内視鏡下椎間板摘出術:より低侵襲な方法で椎間板を摘出
– レーザー治療(PLDD):レーザーを用いて髄核を蒸発させる
– 椎体間固定術:不安定になった椎間を固定する
手術の適応となる主な状況:
– 保存療法で3ヶ月以上改善が見られない
– 進行性の筋力低下がある
– 排尿障害などの重篤な症状がある
椎間板ヘルニアの予防法と日常生活の注意点
椎間板ヘルニアを予防し、症状の悪化を防ぐための日常生活の注意点は以下の通りです:
正しい姿勢と動作
日常生活での姿勢や動作に注意しましょう:
– 重いものを持ち上げる際:
– 膝を曲げ、背中をまっすぐに保つ
– 物を体に近づけて持つ
– 急に持ち上げず、ゆっくりと行う
– 長時間同じ姿勢を避ける:
– 1時間に1回は姿勢を変える
– 立ち仕事、座り仕事どちらも適度に休憩を取る
– 適切な睡眠環境:
– 適度な硬さのマットレスを使用する
– 横向きで寝る場合は膝の間に枕を挟む
体重管理
過度な体重は腰椎への負担を増加させるため、適正体重を維持しましょう。
腰部の筋力強化
体幹の安定性を高める運動を定期的に行いましょう:
腰部の筋力強化
体幹の安定性を高める運動を定期的に行いましょう:
お尻上げ体操
- 仰向けで寝て、軽く両膝を曲げる
- 腰が反らない程度の高さまでお尻から順番に上体をゆっくり上げる
- 背中から順番にお尻までゆっくり下ろす
- 2,3を繰り返し10回、1日3セット行う
【腹横筋トレーニング動画】椎間板ヘルニアの腰痛改善エクササイズ
椎間板ヘルニアの改善に効果的な腹横筋を鍛えるトレーニングを理学療法士が解説。コルセットのような働きをする腹横筋を強化することで、椎間板への負担を軽減し、ヘルニアの症状改善につながります。テレビを見ながらでもできる簡単なエクササイズなので、ぜひ継続して取り組んでみましょう。
注意点:動画で紹介されているように、椎間板ヘルニアの改善には腹横筋のトレーニングが効果的です。腹横筋はコルセットのような働きをする重要な筋肉で、これを強化することで自分自身の筋肉で腰を支えられるようになります。ただし、急性期の強い痛みがある場合は無理をせず、専門医に相談してから開始しましょう。
- 仰向けになり、膝を曲げる
- お腹を凹ませるように腹筋に力を入れる
- 10秒間キープし、ゆっくり力を抜く
- 10回程度繰り返す
お尻上げ体操
1. 仰向けで寝て、軽く両膝を曲げる
2. 腰が反らない程度の高さまでお尻から順番に上体をゆっくり上げる
3. 背中から順番にお尻までゆっくり下ろす
4. 2,3を繰り返し10回、1日3セット行う
ドローイン
1. 仰向けになり、膝を曲げる
2. お腹を凹ませるように腹筋に力を入れる
3. 10秒間キープし、ゆっくり力を抜く
4. 10回程度繰り返す
生活習慣の改善
– 喫煙を避ける:喫煙は椎間板の栄養状態を悪化させる
– 適度な運動:ウォーキングや水泳などの低負荷の運動を継続的に行う
– 十分な睡眠と休息:回復のための時間を確保する
– 水分摂取:椎間板の水分量を保つために十分な水分を摂取する
よくある質問
椎間板ヘルニアはどこが痛いですか?
ヘルニアの箇所とそれぞれの症状は?
椎間板ヘルニアの初期症状は?
椎間板ヘルニアは自然に治りますか?
椎間板ヘルニアに効果的な体操は?
椎間板ヘルニアと診断されたらどのような治療法がありますか?
椎間板ヘルニアを悪化させる日常生活の習慣はありますか?
まとめ
椎間板ヘルニアは、椎間板の中の髄核が飛び出して神経を圧迫することで、腰痛や下肢の痛み、しびれなどの症状を引き起こす疾患です。特に腰椎の下部(L4/5、L5/S1)に多く発生し、ヘルニアの場所によって痛みやしびれの出る部位が異なります。
初期症状としては腰痛が中心ですが、進行すると下肢の痛みやしびれが主症状となります。多くの場合は保存療法で改善しますが、症状が続く場合は専門医に相談することが大切です。
日常生活では正しい姿勢や動作を心がけ、体幹の筋力を強化することで予防や再発防止につながります。適切な治療と生活習慣の改善により、多くの患者さんが症状の改善を実感しています。
自分の症状がどの部位のヘルニアに当てはまるのかを理解することで、適切な治療法を選択する一助となります。痛みの場所から推測できることもありますが、正確な診断には専門医の診察が必要です。
*この情報は医学的な助言を提供するものではありません。症状がある場合は、必ず医療専門家に相談してください。*
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