この記事は「日本身体運動科学研究所 代表理事・笹川 大瑛」の監修のもと作成されています。
首の痛みは多くの方が経験する辛い症状です。デスクワークやスマホの長時間使用、不適切な姿勢などが原因で、現代人の多くが首の痛みに悩まされています。首痛の対処法は症状によって異なり、冷やすべき場合と温めるべき場合があります。本記事では、理学療法士が教える肩甲骨トレーニングなど即効性のあるセルフケア方法から、病院を受診すべき目安まで、首の痛みを改善するための具体的な方法を解説します。
「肩こり首こりひどい方が実践するべき関節を安定させるトレーニングについてお話しします。何故肩こり首こりになるのかというと、肩甲骨についている筋肉ってたくさんありますね。そこの筋肉が弱くなると、首についている筋肉がものすごくかたくなっちゃうんです。」
目次
首痛の対処法の基本|症状別に適した対応方法
首の痛みを感じたとき、まず知っておくべきは症状に合わせた適切な対応方法です。痛みのタイプや原因によって最適な対処法が異なります。ここでは基本的なアプローチをご紹介します。
まずは安静にする
首に痛みを感じたら、まず第一に無理に首を動かさず、安静にすることが重要です。痛みが強い場合は、楽な姿勢でゆっくり休みましょう。無理に動かすことで症状が悪化する可能性があります。
症状に合わせて冷やすか温めるか
首の痛みの症状によって、冷やすべきか温めるべきかが変わります。
急性の痛みや腫れがある場合は冷やす
寝違えなど急に起こった痛みや、腫れや熱感がある場合は、炎症が起きている可能性があります。この場合は冷やすことで痛みや炎症を抑える効果があります。
- 冷却シートや保冷剤、湿布などを患部に当て、10分程度冷やしましょう
- 2〜3分休憩した後、再度10分冷やすといった繰り返しが効果的です
- 直接肌に当てると凍傷の恐れがあるため、タオルなどで包むことをおすすめします
慢性的な首こりには温める
長期間続く首の痛みや慢性的なこりの場合は、筋肉の緊張や血行不良が原因となっていることが多いです。この場合は温めることで血行を促進し、筋肉をほぐす効果があります。
- 蒸しタオルやカイロ、温熱シートなどで患部を温める
- ゆっくり入浴して全身の血行を良くする
- ドライヤーの温風を首や肩に当てるのも効果的
状態 | 対処法 | 効果 |
---|---|---|
急性の痛み(24時間以内) | 冷却(氷嚢、冷却シート、冷湿布) | 炎症の抑制、痛みの緩和 |
慢性的な痛み・こり | 温熱(温湿布、入浴、蒸しタオル) | 血行促進、筋肉の緊張緩和 |
強い痛み・日常生活に支障 | 市販薬(鎮痛剤、湿布)、医療機関受診 | 痛みの一時的緩和、専門的治療 |
予防・再発防止 | 肩甲骨トレーニング、姿勢改善 | 筋力強化、負担軽減 |
首の痛みが起こる主な原因とは?日常生活に潜む意外な要因
首の痛みには様々な原因があります。その主な要因を理解することで、適切な対処法を選ぶことができます。首の構造は複雑で、7つの頚椎、それを支える筋肉、神経、靭帯から成り立っています。この繊細な構造に負担がかかることで、痛みやこりが生じるのです。
姿勢の悪さによる首への負担
現代人に最も多い首痛の原因は、長時間同じ姿勢でのデスクワークやスマートフォンの使用による姿勢の悪さです。特に「スマホ首」と呼ばれる状態では、頭を前に倒すことで首に大きな負担がかかります。通常、人の頭の重さは約4〜5kgありますが、前かがみの姿勢では首にかかる負担が3〜5倍にも増加する可能性があるという研究結果があります。頭部前傾姿勢と頚部の負担に関する研究(PubMed)
筋肉の緊張と血行不良
長時間同じ姿勢でいることで筋肉が緊張し、血行不良を引き起こします。特に肩甲骨周辺の筋肉が弱くなると、首の筋肉に過度な負担がかかり、痛みやこりの原因となります。理学療法士の笹川先生によると、「肩こりや首こりがひどい方は、肩甲骨の筋肉が弱くなっている」ことが多いそうです。
ストレスや精神的緊張
ストレスや精神的な緊張も首の痛みの大きな原因です。ストレスを感じると自律神経のバランスが崩れ、筋肉が無意識のうちに緊張状態になります。このため、ストレスの多い現代社会では首の痛みを訴える人が増加しています。
寝違えによる急性の首の痛み
睡眠中の不自然な姿勢によって起こる「寝違え」も、急性の首の痛みの代表的な原因です。寝具の不適切さや寝る前の疲労、冷えなどが寝違えを引き起こしやすくします。寝違えによる痛みは一時的なものですが、適切な対処をしないと慢性化することもあります。
加齢による変化
年齢を重ねるにつれ、頚椎の変形や椎間板の変性が進み、首の痛みの原因となることがあります。50代以上になると特に「変形性頚椎症」などの症状が現れやすくなります。これらは自然な老化現象の一部ですが、適切なケアや運動で症状を軽減することができます。
病気や怪我が原因となるケース
時に首の痛みは、頚椎椎間板ヘルニアや頚椎症、外傷性頚部症候群(むちうち症)などの病気や怪我が原因となることもあります。このような場合は、自己判断での対処よりも医療機関での適切な診断と治療が必要です。
専門家が教える肩甲骨の関節トレーニング
首の痛みや肩こりの根本的な原因である肩甲骨周りの筋肉を鍛えるトレーニングをご紹介します。以下のエクササイズは理学療法士の笹川先生が教える、首こり・肩こりに効果的な方法です。
外側の筋肉(前鋸筋)を鍛えるトレーニング
- 手のひらを前に向け、肘を軽く曲げる
- 脇を締めた状態で肘を前に出す
- この状態から肘をゆっくり高く上げていく
- このとき脇が浮かないように注意する
- 8〜10回を目安に繰り返す
肩甲骨の内側の筋肉を鍛えるトレーニング
- 手のひらを外側に向け(外回りに)、肘を軽く曲げる
- 手のひらをなるべく後ろに向ける
- この状態で肘をゆっくり内側に入れていく
- 肩甲骨と背骨を寄せるイメージで力を入れる
- 8〜10回を目安に繰り返す
理学療法士の笹川先生によると、これらのトレーニングを定期的に行うことで、首の痛みやこりが軽減し、血行も改善する可能性があります。個人差がありますので、無理のない範囲で継続することが大切です。首が回らないほどの痛みがある場合でも改善効果が期待できるので、ぜひ試してみてください。
「1番は朝の目覚めが痛くなく起きれるようになったことです。車の中でも今までは痛くてとにかくゴリゴリやりながら運転してたような感じが、セルフケアをしなくても運転できるようになりました。」
【症状別】首痛の対処法ガイド|寝違え・ストレートネック・肩こり
首の痛みの原因によって、最適な対処法は異なります。ここでは、代表的な症状別の対処法をご紹介します。
寝違えの痛みへの対処法
寝違えは、睡眠中の不自然な姿勢によって首の筋肉や靭帯に負担がかかり、起床時に強い痛みを感じる状態です。
寝違えの応急処置
- 発症後24時間以内は冷やす:炎症を抑えるために、氷嚢や冷却シートなどで患部を冷やします
- 安静にする:無理に首を動かさず、楽な姿勢を保ちます
- 痛みが和らいできたら、徐々に首を動かす:数日経って痛みが和らいできたら、ゆっくりと優しく首を動かし始めましょう
寝違え予防のポイント
- 適切な枕を使用する:自分の体型に合った高さと硬さの枕を選びましょう
- 寝る前のストレッチ:就寝前に軽く首や肩のストレッチをすることで、筋肉の緊張を和らげることができます
- 寝室の温度管理:冷えは筋肉の緊張を招くため、適切な室温を保ちましょう
ストレートネックへの対処法
ストレートネックとは、本来カーブしているはずの首の骨(頚椎)がまっすぐになってしまう状態です。スマートフォンやパソコンの長時間使用が主な原因とされています。
ストレートネックの改善方法
- 姿勢の改善:目線を上げ、背筋を伸ばして座る習慣をつける
- スマホやパソコンの使用時間を制限する:1時間に一度は休憩を取り、首を動かしましょう
- 首のストレッチ:あごを引くエクササイズや、ゆっくりと首を回すストレッチが効果的です
- 肩甲骨まわりの筋肉トレーニング:前述の肩甲骨トレーニングを実践しましょう
肩こりからくる首の痛みへの対処法
肩こりと首の痛みは密接に関連しており、肩の筋肉の緊張が首にまで及ぶことで痛みを感じることがあります。詳しくは肩こり解消法をご覧ください。
肩こり改善のポイント
- 温めて血行を促進:入浴やホットタオル、カイロなどで肩周りを温めます
- 肩甲骨を動かす:デスクワーク中でも、意識的に肩を回したり、肩甲骨を寄せたり開いたりする動きを取り入れましょう
- ストレス管理:ストレスは筋肉の緊張を高めるため、適度なリラクゼーションを心がけましょう
市販薬の適切な使用
痛みが強く、日常生活に支障をきたす場合は、市販の鎮痛剤や湿布薬を使用することも一つの選択肢です。ただし、以下の点に注意してください:
- 用法・用量を必ず守る
- 長期間にわたって使用しない
- 症状が改善しない場合は医療機関を受診する
もう繰り返さない!首痛の予防法と簡単エクササイズ
首の痛みは一度良くなっても、生活習慣を改善しなければ再発することがあります。ここでは、日常生活で実践できる予防法をご紹介します。
正しい姿勢を心がける
首の痛みの多くは姿勢の悪さから来ています。以下のポイントを意識しましょう:
- 背筋を伸ばし、あごを軽く引いた姿勢を保つ
- スマホやパソコン画面は目線の高さに調整する
- 長時間同じ姿勢を続けない(30分に1回は姿勢を変える)
- 適切な椅子とデスクの高さを使用する
定期的なストレッチと運動
首や肩の筋肉を柔軟に保ち、血行を良くするために定期的なストレッチと運動が重要です。自宅でできるストレッチについてさらに詳しく知りたい方は、首こり改善ストレッチもおすすめです。
- 首のストレッチ:ゆっくりと首を前後左右に傾ける(ただし痛みを感じる場合は中止)
- 肩回し:両肩をゆっくりと前後に回す
- 肩甲骨トレーニング:前述したトレーニングを定期的に行う
- 有酸素運動:ウォーキングや水泳など全身の血行を促進する運動
睡眠環境の改善
良質な睡眠は首の疲労回復に不可欠です:
- 自分に合った枕を選ぶ:首のカーブをサポートする枕が理想的
- 寝姿勢に注意:仰向けまたは横向きが望ましい(うつ伏せは首への負担が大きい)
- 適度な室温と湿度を保つ
ストレス管理
ストレスは筋肉の緊張を引き起こし、首の痛みにつながります:
- リラクゼーション法を取り入れる(深呼吸、瞑想など)
- 趣味や運動でストレスを発散する
- 十分な休息を取る
長時間のデスクワークやスマホ使用の対策
現代生活では避けられないデスクワークやスマホ使用ですが、以下の対策を講じましょう:
- 1時間ごとに短い休憩を取り、首と肩を動かす
- 目線の高さにモニターを設置する
- スマホの使用時間を制限し、なるべく目線の高さで持つ
- 人間工学に基づいた椅子やデスクを使用する
予防のポイント | 具体的な実践方法 | 期待される効果 |
---|---|---|
正しい姿勢 | 背筋を伸ばし、あごを引く モニターは目線の高さに | 首への負担軽減 姿勢性の首痛予防 |
肩甲骨トレーニング | 前鋸筋や内側の筋肉を鍛える 1日3セット×2種類 | 首の筋肉の負担軽減 血行促進 |
定期的な休憩 | 30分~1時間ごとに首・肩を動かす | 筋肉の緊張防止 血行促進 |
睡眠環境の改善 | 自分に合った枕を使用 首のカーブをサポート | 寝違え予防 首の疲労回復 |
ストレス管理 | リラクゼーション 趣味や適度な運動 | 筋肉の緊張緩和 自律神経の安定 |
専門医に相談すべき?首痛の受診タイミングと治療法
セルフケアで改善しない場合や、特定の症状がある場合は医療機関の受診を検討すべきです。
受診すべき症状の目安
以下のような症状がある場合は、自己判断せず早めに医療機関を受診しましょう:
- 2週間以上改善しない痛み
- 腕や手のしびれや痛み
- 頭痛やめまいを伴う首の痛み
- 首の動きが著しく制限される
- 外傷後(交通事故や転倒など)の首の痛み
- 発熱や全身の倦怠感を伴う場合
受診すべき診療科
首の痛みの場合、主に以下の診療科を受診します:
- 整形外科:骨や筋肉、関節など運動器の専門
- 神経内科:神経症状(しびれなど)を伴う場合
- リハビリテーション科:運動療法や物理療法を専門とする
医療機関での検査と治療
医療機関では、症状や原因に応じて以下のような検査と治療が行われます:
検査
- レントゲン検査:頚椎の変形や位置関係を確認
- MRI・CT検査:椎間板や神経、軟部組織の状態を詳細に調べる
- 血液検査:炎症や感染症の有無を調べる
治療法
- 薬物療法:痛みを和らげる鎮痛剤や、炎症を抑える非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
- 物理療法:温熱療法、電気療法、牽引療法など
- リハビリテーション:適切なストレッチや筋力トレーニング
- ブロック注射:痛みが強い場合、神経ブロック注射で痛みを緩和
- 手術:神経が圧迫されている場合など、保存療法で改善しない場合に検討
首の痛みと頭痛の関連についても詳しく知りたい方は首痛と頭痛の関係をご参照
ください。
首痛の対処法に関するよくある質問
Q. 首の痛みは冷やすべき?温めるべき?
A. 首の痛みが急性の場合(寝違えや外傷など24時間以内の痛み)は冷やすことで炎症を抑制できます。一方、慢性的な首こりや筋肉の緊張による痛みの場合は温めることで血行を促進し、筋肉をほぐす効果があります。症状に合わせた対処が重要です。
Q. スマホの使用で首が痛くなるのを防ぐにはどうすれば良い?
A. スマホの使用による首の痛み(スマホ首)を防ぐには、
①スマホを目線の高さに持ち上げる
②使用時間を制限し定期的に休憩を取る
③首や肩のストレッチを定期的に行う
④肩甲骨周りの筋肉を鍛える
⑤正しい姿勢を意識する、といった対策が効果的です。
長時間の使用は避け、15分に1回は姿勢を変えましょう。
Q. 首の痛みにはどんな市販薬が効果的?
A. 首の痛みには、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を含む鎮痛剤や、筋弛緩作用のある湿布薬が効果的です。ただし、市販薬はあくまで一時的な対処法であり、症状が2週間以上続く場合や悪化する場合は医療機関を受診してください。また、用法・用量を守り、長期間の連続使用は避けましょう。
Q. 肩甲骨のトレーニングはどのくらいの頻度で行うべき?
A. 肩甲骨のトレーニングは、1日1回、各エクササイズ8〜10回×3セットを目安に行うことをおすすめします。無理のない範囲で始め、徐々に回数を増やしていきましょう。継続が重要なので、朝の起床時や入浴後など、日常生活の中に組み込みやすいタイミングで行うと良いでしょう。
Q. 首の痛みが腕のしびれを伴う場合は何が原因?
A. 首の痛みに腕のしびれを伴う場合は、頚椎椎間板ヘルニアや頚椎症などによる神経圧迫が考えられます。これは自己判断で対処するのではなく、早めに整形外科や神経内科を受診することが重要です。MRIなどの検査で神経圧迫の有無や程度を確認し、適切な治療を受ける必要があります。
Q. 首の痛みを予防するために最適な枕はどのようなもの?
A. 首の痛みを予防するためには、自分の体型に合った高さと硬さの枕を選ぶことが重要です。理想的には、首のカーブを自然にサポートし、頭と首がまっすぐ一直線になるような枕が良いでしょう。横向き寝の場合は肩幅の分だけ高さがあるもの、仰向け寝の場合はやや低めがおすすめです。低反発素材や頚椎サポート型の枕も選択肢の一つです。
Q. デスクワークによる首の痛みを軽減するためのオフィス環境の整え方は?
A. デスクワークによる首の痛みを軽減するには、
①モニターを目線の高さに調整する
②椅子は背もたれが腰をサポートし、両足が床につく高さに調整する
③キーボードとマウスは肘が90度に曲がる位置に配置する
④1時間に一度は短い休憩を取り、首と肩を動かす
⑤ディスプレイアームやドキュメントホルダーを使用して姿勢の負担を減らす、
といった工夫が効果的です。