この記事は「日本身体運動科学研究所 代表理事・笹川 大瑛」の監修のもと作成されています。
変形性膝関節症 筋トレでお悩みの方へ。変形性膝関節症の筋力トレーニングは、膝周囲の筋肉を鍛えることで膝の安定性を高め、痛みを和らげる効果が期待される可能性があります。大腿四頭筋、内転筋、中臀筋、ハムストリングスなどを鍛えることが重要です。
変形性膝関節症の改善には、正しい筋力トレーニングを継続することが最も大切です。本記事では、理学療法士が推奨する効果的な筋トレ方法を5つ厳選してご紹介します。
おすすめの筋力トレーニング:
- 膝の曲げ伸ばし運動: 椅子に座り、2秒かけて膝を伸ばし、2秒かけて曲げる動作を繰り返します
- タオル押しつけ運動: 膝の下にタオルを置き、両腕で上半身を支えながら、膝の裏でタオルを床に押しつけて5秒キープ
- 内転筋を鍛える運動: 仰向けに寝て、膝と膝の間にボールやクッションを挟み、膝で押しつぶすように力を入れる
- スクワット: 正しいフォームで行うことで、背中からお尻、太ももまで広範囲の筋肉を鍛えることができます
注意点:
- 痛みが強い時は無理に運動せず、医師や理学療法士に相談してください
- 急に負荷を上げるのではなく、徐々に負荷を上げていくのが理想的です
- 膝がつま先より前に出ないように、正しいフォームを意識することが重要です
膝関節症の方には、ランニングなどの高負荷な運動は避け、日本整形外科学会認定の医師や理学療法士に相談して適切な運動を選びましょう。
変形性膝関節症の患者数は女性が男性の2倍近くいることがわかっています。なぜかというと、靭帯、骨、軟骨、筋肉を保つための重要なホルモンであるエストロゲンという女性ホルモンが関係しているからです。
目次
変形性膝関節症とは?原因と症状を理解しよう
変形性膝関節症は、膝関節の軟骨がすり減り、関節に炎症や変形が起こる病気です。日本では推定で約1,000万人が罹患していると言われています。
50歳以上の女性は同年代の男性に比べてスネの骨で約4倍、膝のお皿で3倍のスピードで軟骨が摩耗するという報告があります。
主な原因
- 加齢: 軟骨の水分が減少し、弾力性が失われる可能性があります
- 肥満: 膝関節への負担が増加する傾向があります
- 筋力低下: 膝を支える筋肉が衰える可能性があります
- ホルモンの影響: 女性ホルモン(エストロゲン)の減少が関係する可能性があります
典型的な症状
- 膝の痛み(特に動き始め)
- 膝の腫れや熱感
- 膝の可動域制限
- 歩行困難
- 階段の上り下りが困難
進行段階 | 症状 | 運動療法の効果 |
---|---|---|
初期 | 起床時、歩き始めの痛み | 非常に有効 |
中期 | 歩行時の痛み、階段昇降困難 | 有効 |
末期 | 安静時痛、著明な変形 | 限定的(医師相談必須) |
なぜ変形性膝関節症 筋トレが推奨されるのか?
筋力トレーニングが変形性膝関節症に効果的な理由は、膝関節を支える筋肉を強化することで関節への負担を軽減できる可能性があるからです。
医学的な研究でも、適切な運動療法が症状の改善に有効であることが示されています。
運動療法の具体的な効果
- 痛みの軽減: 筋肉が膝関節を安定させ、痛みを和らげる効果が期待されます
- 可動域の改善: 関節の動きがスムーズになる可能性があります
- 日常生活動作の向上: 歩行や階段昇降が楽になる傾向があります
- 進行の抑制: 症状の悪化を遅らせる可能性があります
筋力の低下は40歳頃から始まると言われていますが、筋肉量が減ると体を動かすこと自体が億劫になっていきます。運動量が減ると基礎代謝も落ち、食欲も湧かなくなり、さらに筋力が低下して体の老化がどんどん進んでしまいます。
変形性膝関節症 筋トレで重点的に鍛えるべき筋肉とは?
従来は大腿四頭筋(太ももの前側)を鍛えることが推奨されていました。しかし、最新の研究では異なる見解が示されています。
膝の痛みを根本的に改善するには、膝のねじれを防ぐ筋肉を鍛えることが重要です。
優先して鍛えるべき4つの筋肉
- 内転筋(太ももの内側): 膝の内側への負担を軽減する効果が期待されます
- 内側ハムストリングス(太ももの裏側内側): 膝のねじれを防止する可能性があります
- 腸腰筋(股関節前面のインナーマッスル): 股関節の安定性を向上させる効果があります
- 多裂筋(腰部後面のインナーマッスル): 体幹と下肢の連携を改善する可能性があります
【5つのステップ】変形性膝関節症 筋トレの自宅実践法
専門家が推奨する効果的な筋力トレーニングを、段階的に実践できるように5つのステップでご紹介します。各トレーニングは10秒程度の短時間で実施できるため、継続しやすい内容となっています。
ステップ1: 腸腰筋強化トレーニング(股関節インナーマッスル)
実施方法:
- 仰向けに寝て、股関節を開いてつま先を天井に向けます
- この状態で膝の曲げ伸ばしを10回行います
- つま先が下に下がらないよう、膝も上に立たないよう注意します
重要なポイント: つま先は常に天井を向け、膝は寝かしたまま行うことが効果的
ステップ2: 内側ハムストリングス強化トレーニング
実施方法:
- 膝を立ててつま先を内側に向けます
- かかとを真下にぐっと押しつけるように10秒間力を入れます
- 痛い場合は膝を少し伸ばして調整します
注意点: 太ももの裏側に力が入ることを確認しながら行います。痛みがある場合は無理をしないことが大切です。
ステップ3: 多裂筋強化トレーニング(体幹安定化)
実施方法:
- 手のひらを前に向けて横になります
- 片側のお尻を浮かせ、同じ側の肩を下げます
- 脇腹を強く引き締めるように10秒間キープします
期待される効果: 腰部の筋肉を強化し、膝への負担を軽減する可能性があります。
ステップ4: 内転筋強化トレーニング
実施方法:
- 仰向けで両膝を立て、つま先を内側に向けます
- 膝と膝の間を拳2つ分開けます
- お尻を浮かせて体幹と太ももが一直線になるまで上げます
- 10秒間キープします
注意点: かかとが床から浮かないよう、親指とかかとは床につけたまま行うことが重要です。
ステップ5: サルコペニアチェック付き筋力確認法
トレーニング効果を確認するため、筋力チェックも併せて行いましょう。
ふくらはぎ測定法:
- ふくらはぎの一番太い部分を両手で囲みます
- 指と指の間が大きく開く → 筋肉量充分
- 指と指がちょうど付く → 正常範囲
- 指と指の間に隙間ができる → サルコペニア(筋力低下)の可能性があります
このチェック方法は東京大学で誰でも簡単にチェックできる方法として開発され、何千人という単位で実施されたテストです。
効果を高める!膝のストレッチ方法
筋力トレーニングと合わせて行うストレッチは、筋肉の柔軟性を保ち、関節の可動域改善に役立つ可能性があります。
適切なストレッチを行うことで、筋トレの効果をより高めることが期待できます。
基本的なストレッチ法
- 太もも前面のストレッチ: 壁に手をついて、足首を持ち上げる
- 太もも後面のストレッチ: 椅子に足を乗せ、ゆっくり前屈する
- ふくらはぎのストレッチ: 壁に手をつき、足を前後に開く
実施頻度の目安: 1日1回、各ストレッチ30秒間キープを目安に行います。無理をせず、心地よい程度の伸びを感じる範囲で実施しましょう。
変形性膝関節症 筋トレを行う上での注意点
安全で効果的な筋力トレーニングを行うために、以下の注意点を必ず守りましょう。
避けるべき運動・動作
- 激しい動きのスポーツ: サッカー、バスケットボールなどの急激な方向転換を伴う運動
- 日本式生活スタイル: 正座、深いしゃがみ込みなどの膝に負担をかける姿勢
- 高負荷な運動: 重いウェイトを使ったスクワットなどの過度な負荷
- 痛みを我慢しての運動: 無理は禁物です
安全に行うためのポイント
- 段階的な負荷増加: 徐々に運動強度を上げることが大切です
- 適度な頻度: 週3回程度から開始し、体調に合わせて調整します
- 正しいフォーム: 見よう見まねではなく、専門家の指導を受けることをお勧めします
- 体調管理: 痛みが強い日は休息を取ります
膝の状態によって適切な運動が異なるため、運動開始前には必ず医師の診断を受けることが大切です。
専門家の見解:実際の改善事例
61歳の片桐さんは、変形性膝関節症でほぼ末期の状態でした。しかし、専門的なセルフケア指導を6回受けることで劇的な改善を見せています。
この事例は、適切な指導のもとで継続的に取り組むことの重要性を示しています。
改善前の状態
- 膝を90°までしか曲げることができない状態
- 歩行時に足を引きずる状態
- 階段の昇降が困難
- しゃがむことが不可能
改善後の変化
- スタスタと歩けるようになった
- 階段の昇降が可能になった
- 歩幅が広がり、上半身の横揺れが改善
- 手術を回避できる状態まで回復
6回目が終わった頃には、スタスタと歩けるようになりました。膝が悪くなる前の状態ほどには戻ってはいませんが、少なくともここに来る前よりは全然良くなっているのが自分でも分かりましたし、足を引きずりながら歩くということがもうほとんどなくなりました。
筋トレと合わせて行いたい!変形性膝関節症の進行を予防する日常生活のポイント
筋力トレーニングの効果をより高めるために、日常生活での工夫も重要です。
体重管理の重要性
- 理想体重の維持: BMI 25未満を目標とすることが推奨されています
- 膝への負担軽減: 体重1kg減で膝への負担は3-4kg軽減される可能性があります
歩き方の改善
- 正しい歩行姿勢: 背筋を伸ばし、かかとから着地することが大切です
- 適度な歩幅: 無理のない範囲で歩幅を保ちます
- 靴選び: クッション性の良い靴を選択することをお勧めします
日常動作の工夫
- 椅子生活の推奨: 床座りから椅子座りへの変更を検討しましょう
- 手すりの活用: 階段や浴室での安全確保が重要です
- 荷物の軽量化: 重い荷物の持ち運びを避けることが大切です
痛みが強い・改善しない場合の治療選択肢
筋力トレーニングや生活習慣の改善で効果が見られない場合は、医療機関での治療を検討する必要があります。
保存療法
- 薬物療法: 消炎鎮痛剤、湿布薬の使用
- 注射療法: ヒアルロン酸注射、PRP療法
- 装具療法: サポーター、足底板の使用
手術療法
- 関節鏡視下手術: 軽度から中等度の場合に適応される可能性があります
- 高位脛骨骨切り術: 比較的若い患者に適応される場合があります
- 人工膝関節置換術: 重度の場合の最終選択肢として検討されます
医療機関受診の目安:
- 3ヶ月以上続く膝の痛み
- 日常生活に著しい支障がある場合
- セルフケアで改善が見られない場合
詳しい治療法についてはPubMed医学文献データベースで最新の研究結果をご確認いただくことをお勧めします。
変形性膝関節症の筋トレに関するよくある質問
Q. 変形性膝関節症の筋力トレーニングはどのくらいの頻度で行えばよいですか?
A. 初めは毎日軽めの運動から始め、慣れてきたら2-3日に1回の頻度で行うことが推奨されます。1週間から10日程度で筋肉がついた感覚を掴めるようになる可能性があります。
Q. 膝に痛みがある時も筋トレを続けて大丈夫ですか?
A. 痛みが強い時は無理に運動せず、医師や理学療法士に相談してください。急に負荷を上げるのではなく、徐々に負荷を上げていくのが理想的です。
Q. どのような筋肉を重点的に鍛えるべきですか?
A. 大腿四頭筋、内転筋、中臀筋、ハムストリングスなどを鍛えることが重要です。特に膝のねじれを防ぐ内転筋と内側ハムストリングスの強化が効果的とされています。
Q. 筋トレの効果はどのくらいで現れますか?
A. 適切な筋トレを継続することで、1-2週間程度で筋力の改善を実感でき、トレーニング前後で片足立ちや膝の曲げ伸ばしの安定感に変化を感じられる場合があります。
Q. スクワットは変形性膝関節症に効果的ですか?
A. 正しいフォームで行うスクワットは効果的とされていますが、膝がつま先より前に出ないように注意が必要です。痛みがある場合は、より安全な椅子を使った運動から始めることをお勧めします。
Q. 筋トレ以外にも注意すべきことはありますか?
A. 適度な体重管理、正しい歩き方、膝に負担をかけない日常動作の工夫が重要です。また、膝関節症の方にはランニングなどの高負荷な運動は避けることが推奨されています。
Q. 筋力の低下をチェックする簡単な方法はありますか?
A. ふくらはぎの一番太い部分を両手で囲んで、指と指の間に隙間ができる場合はサルコペニア(筋力低下)の可能性があります。この方法は東京大学で実施された検査法です。
まとめ:継続が鍵となる筋力トレーニング
変形性膝関節症の改善には、適切な筋力トレーニングを継続することが最も重要です。
特に以下の4つの筋肉を重点的に鍛えることで、膝の安定性を向上させ、痛みの軽減が期待できます。
今日から始められる3つのステップ
- 筋力チェック: ふくらはぎ測定でサルコペニアを確認します
- 基本運動の開始: 紹介した5つのトレーニングから2-3種目を選択します
- 継続的な実践: 週3回程度、無理のない範囲で継続します
重要なポイント:
- 筋肉は70代80代になっても増やすことができる可能性があります
- 正しいフォームでの実施が効果を左右します
- 痛みがある場合は医師への相談を優先します
変形性膝関節症の改善事例が示すように、適切な指導のもとで継続的に取り組むことで、手術を回避できるほどの改善も期待できます。
まずは今日から、無理のない範囲で筋力トレーニングを始めてみましょう。継続することで、きっと膝の健康状態の改善を実感できるはずです。
本記事の内容は医学的助言に代わるものではありません。症状が続く場合や悪化する場合は、必ず医師にご相談ください。
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