この記事は「日本身体運動科学研究所 代表理事・笹川 大瑛」の監修のもと作成されています。
パソコンやスマートフォンを長時間使用する現代社会では、肩こりと目の疲れに悩まされている方が急増しています。特に目の疲れが慢性化した眼精疲労は、単なる目の不調だけではなく、肩こりや頭痛などの全身症状も引き起こすことがあります。そんな辛い症状を緩和する方法として、古くから実践されてきたのが「ツボ押し」です。
本記事では、肩こりと目の疲れの関連性や、効果的なツボとその正しい押し方、さらに日常生活での予防法まで詳しく解説します。ツボ押しは正しい位置と方法で行うことで効果が格段に高まりますので、ぜひ最後までお読みください。
「目の疲れからくる肩こりの多くは、目の周りの筋肉や首の後ろにある筋肉の緊張が原因です。適切なツボ刺激は血行を促進し、緊張した筋肉をほぐす効果があります」
目次
なぜ目の疲れと肩こりは関連しているのか?
多くの方が経験している目の疲れと肩こりの密接な関係について、まずは医学的な視点から解説します。
眼精疲労のメカニズム
眼精疲労とは、目の疲れが進行した状態を指します。一時的な目の疲れなら休息で回復しますが、眼精疲労は休んでも十分に回復しないのが特徴です。
目にはピント調節をするための「毛様体筋」という筋肉があり、近くを見るときには収縮し、遠くを見るときには緩む仕組みになっています。パソコンやスマホなど近くのものを長時間見続けると、この毛様体筋が緊張状態のままとなり、血流が悪くなって疲労物質が蓄積します。
この状態が続くと自律神経のバランスが崩れ、首や肩の筋肉にも影響を及ぼすようになります。つまり、目の疲れが肩こりを引き起こす大きな要因となっていることが考えられます。
後頭部と首の筋肉の関係
後頭部には「後頭下筋群」という小さな筋肉群があり、これらは目の動きと連動して働いています。目を酷使すると、この筋肉群も過剰に働いて硬くなり、その結果として首の筋肉の緊張を引き起こし、肩こりにつながる可能性があります。
この後頭下筋群は自律神経とも密接に関わっているため、この部分の緊張は全身の不調にも影響する可能性があるのです。
症状 | 主な原因 | 関連するツボ |
---|---|---|
目の疲れ・かすみ | 毛様体筋の緊張、ドライアイ | 睛明、攅竹、魚腰 |
肩こり | 姿勢不良、筋肉の緊張 | 風池、天柱、肩井 |
頭痛 | 血行不良、自律神経の乱れ | 太陽、風池、天柱 |
肩こりと目の疲れに効くツボ7選
ここからは、肩こりと目の疲れに効果的なツボを7つご紹介します。位置を正確に把握し、適切な強さで押すことで効果を実感できる可能性が高まります。
1. 風池(ふうち)- 眼精疲労と肩こりの解消に
風池は、首の後ろ、髪の生え際にある大きな筋肉の外側に位置するツボです。眼精疲労をはじめ、肩こり、頭痛、めまいなどに効果が期待できます。
位置:首の後ろ側の髪の生え際にある左右の大きな筋肉の外側のくぼみにあります。
押し方:両手を組んで、両側の親指を風池に当て、体の上半身の重みを利用して軽く3~5秒間押し、これを3回繰り返します。
目の疲れに関連する症状については、ドライアイの症状と対策もご参照ください。
2. 天柱(てんちゅう)- 肩こりと目の疲れの緩和に
天柱は後頭部、髪の生え際の両側にある太い筋肉の外側にあるツボです。肩こり、眼精疲労、自律神経の安定に効果的とされています。
位置:後頭部の髪の生え際、中央のくぼみから左右に触れる太い筋線維の外側にあります。
押し方:両手の親指で左右の天柱を同時に押します。強さは心地よく感じる程度で、3秒押して2秒離す動作を5回ほど繰り返します。
3. 肩井(けんせい)- 肩こりの緩和に
肩井は首と肩を結んだ線の中間あたりにあるツボで、肩こりや目の疲れによる肩の緊張に効果が期待できます。
位置:首の骨の根元と肩先を結んだ線の中間点にあります。
押し方:人差し指・中指・薬指の3本をそろえて、肩井を左右交互に3秒×3回押します。デスクワークの休憩時に行うと効果的です。
4. 太陽(たいよう)- 眼精疲労からくる頭痛に
太陽は、こめかみ付近にあるツボで、眼精疲労による頭痛や目の疲れの緩和に効果が期待できます。
位置:眉尻と目尻の間のくぼみ(こめかみ部分)にあります。
押し方:両手の親指を両側の太陽に当て、ゆっくりと円を描くように指圧します。強さは気持ちよく感じる程度で、1分程度続けると良いでしょう。
5. 攅竹(さんちく)- 目の疲れやまぶたの痙攣に
攅竹は眉の内側のくぼみにあるツボで、眼精疲労に効果が期待できます。特にパソコン作業後の目の疲れに試してみる価値があります。
位置:眉頭の内側(鼻に近い方)のくぼみにあります。
押し方:親指で軽く数秒間押します。あまり強く押さないよう注意しましょう。
6. 睛明(せいめい)- 目の疲れとかすみ目に
睛明は目頭の内側と鼻の付け根の間にあるツボで、視力回復や目のかすみ改善に効果が期待できるとされています。
位置:目頭(目のいちばん内側)と鼻の付け根の間のくぼみにあります。
押し方:目を閉じ、親指と人差し指で睛明をつまむようにします。やさしく円を描くように押しながら、ぎゅっと目を閉じると効果的です。
7. 魚腰(ぎょよう)- ドライアイや眼精疲労に
魚腰は眉毛の真ん中あたりにあるくぼみで、ドライアイや眼精疲労の改善に効果が期待できます。
位置:眉毛の真ん中あたりにあるくぼみです。
押し方:親指や人差し指で軽く押します。1分程度、気持ちよく感じる強さで押し続けると良いでしょう。
肩こりと目の疲れに効くツボの正しい押し方と注意点
効果的なツボ押しのためには、正しい方法で行うことが大切です。以下のポイントに注意しましょう。
基本的な押し方
ツボ押しは、指の腹を使って優しく押すのが基本です。痛気持ちいい程度の強さで、3〜5秒押して2秒緩めるというリズムで行います。一つのツボにつき、この動作を3〜5回繰り返すと効果的です。
強く押せば効果が高まるというわけではありません。特に顔周りのツボは、脂肪や筋肉が少なく敏感な部分なので、力加減に十分注意してください。
肩こりの根本的な解消法については肩こり改善エクササイズも効果的です。
効果を高めるコツ
ツボ押しの効果を高めるには、以下のコツを意識しましょう:
- リラックスした状態で行う
- 呼吸を意識しながら押す(押すときは息を吐く)
- 入浴後など体が温まっているときに行うと効果的
- マッサージオイルや温めたタオルを併用するとさらに効果的
注意すべき点
ツボ押しは基本的に安全な方法ですが、以下のような場合は注意が必要です:
- 妊娠中の方は専門家に相談してから行う
- 皮膚に炎症や傷がある部分は避ける
- 強い痛みを感じる場合はすぐに中止する
- 目の周りのツボを押す際は、眼球を押さないよう注意する
目の疲れと肩こりを予防するための日常習慣
ツボ押しと併せて、日常生活での予防策も大切です。以下の習慣を取り入れることで、目の疲れと肩こりの予防につながります。
デスクワーク中の対策
長時間のデスクワークは目と肩に大きな負担をかけます。以下の対策を心がけましょう:
- 1時間に1回は休憩を取り、遠くを見る習慣をつける
- モニターと目の距離は40cm以上、スマートフォンは30cm以上離す
- 画面の明るさと室内の照明を適切に調整する
- 正しい姿勢を保つ(背筋をまっすぐに、肩の力を抜く)
眼球体操でリフレッシュ
眼球体操は、目の周りの筋肉をほぐし、血行を促進する効果があります。1日に数回、以下の体操を行いましょう:
- まっすぐ前を見る状態から、顔は動かさず目だけを上下左右に動かす
- 時計回りと反時計回りに目を大きく回す
- 遠くと近くを交互に見る(20秒遠くを見て、10秒近くを見る)
栄養面からのサポート
目の健康を維持するためには、適切な栄養素の摂取も重要です:
- ビタミンA・βカロテン:レバー、ニンジン、ほうれん草などに含まれる
- ビタミンB群:豚肉、レバー、玄米、納豆などに含まれる
- ビタミンE:アーモンド、アボカド、オリーブオイルなどに含まれる
- ルテイン・ゼアキサンチン:ケール、ほうれん草、ブロッコリーなどに含まれる
- オメガ3脂肪酸:青魚、亜麻仁油などに含まれる
目薬の活用と専門医への相談
ツボ押しや日常習慣の改善と併せて、症状に合った目薬の使用も効果が期待できます。一部の研究では、適切な目薬の使用が眼精疲労の症状緩和に寄与する可能性が示されています。
目の疲れに効果的な目薬
目の疲れのタイプによって、適した目薬が異なります:
- 疲れ目:ビタミンB12などの栄養成分配合の目薬
- ドライアイ:保湿成分配合の目薬
- 充血:血管収縮成分配合の目薬
ただし、目薬の使用は対症療法であり、根本的な解決にはならないことを理解しておきましょう。使用前に説明書をよく読み、使用期限や使用回数を守ることが大切です。
専門医への相談を検討すべき症状
次のような症状がある場合は、眼科医や鍼灸師などの専門家への相談を検討しましょう:
- 目の痛みや充血が続く
- 視力の急激な低下を感じる
- ツボ押しや休息をとっても症状が改善しない
- 頭痛や吐き気などの全身症状を伴う
肩こりと目の疲れに関するよくある質問
Q. ツボ押しはどのくらいの頻度で行うべきですか?
A. ツボ押しは基本的に毎日行って問題ありません。特に目の疲れや肩こりを感じたときにすぐに行うと効果的です。デスクワーク中なら1時間に1回程度、短時間(1〜3分程度)のツボ押しを取り入れると、疲れの蓄積を防げます。ただし、強く押しすぎると逆効果になることもあるので、心地よく感じる強さで行うことが大切です。
Q. 肩こりや目の疲れに効果的な入浴法はありますか?
A. 38〜40度程度のお湯に15〜20分程度浸かることで、全身の血行が促進され、肩こりや目の疲れの緩和に効果が期待できます。入浴中に首や肩を温めながら軽くマッサージすると、さらに効果が高まります。また、入浴前後にツボ押しを行うと、血行が良くなっているため通常よりも効果を感じやすくなります。入浴剤に生姜やヒノキなどを使用すると、リラックス効果も得られます。ただし、個人の体調や持病によって適温は異なる可能性がありますので、ご自身の体調に合わせて調整することをおすすめします。
Q. 目の疲れからくる肩こりと通常の肩こりは違いますか?
A. 目の疲れからくる肩こりは、首の後ろから肩にかけての筋肉に特に強く出る傾向があります。特徴として、目を酷使する作業(長時間のパソコン作業やスマホの使用など)の後に症状が悪化し、休息を取っても完全には回復しないことが多いです。一方、通常の肩こりは姿勢の悪さや運動不足、ストレスなどが主な原因で、症状の出方や部位が若干異なります。どちらの場合も、原因に合わせた対策が重要です。
Q. 子供も眼精疲労になりますか?
A. はい、子供も眼精疲労になることがあります。特に現代はタブレットやスマートフォンの使用が低年齢化しており、子供の眼精疲労も増加傾向にあります。子供の場合、自分から症状を訴えないこともあるため、目をよくこする、集中力が続かない、頭痛を訴えるなどの兆候に注意が必要です。子供向けには、デジタル機器の使用時間を制限し、定期的に目を休ませる習慣をつけさせることが大切です。症状が気になる場合は小児眼科を受診しましょう。
Q. ツボ押しで目の視力は改善しますか?
A. ツボ押しには血行促進効果があり、目の疲れを和らげることが期待できますが、視力そのものの回復については科学的証拠が限られています。ただし、眼精疲労が原因で一時的に視力が低下している場合は、ツボ押しによって疲れが解消されることで、視力が元の状態に戻ることはあります。視力の問題がある場合は、ツボ押しだけに頼らず、適切な眼鏡やコンタクトレンズの使用、眼科医の診察を受けることをおすすめします。視力回復を謳う民間療法には科学的根拠が乏しいものも多いので注意が必要です。
Q. パソコン作業中にできる簡単なツボ押しはありますか?
A. パソコン作業中の短い休憩時間にできる簡単なツボ押しとしては、太陽(こめかみ)のツボ押しがおすすめです。両手の中指でこめかみを軽く円を描くようにマッサージするだけで、目の疲れの緩和に効果的です。また、目を閉じて親指と人差し指で目頭の睛明を軽く押したり、眉間を優しくマッサージするのも効果的です。これらは座ったままでも気軽にできるため、1時間に1回程度、30秒〜1分間行うと良いでしょう。長時間のデスクワーク中は、こまめに姿勢を正して肩の力を抜くことも忘れないようにしましょう。
Q. 目の疲れと肩こりを予防するためのストレッチはありますか?
A. 目の疲れと肩こりを予防するストレッチとしては、首や肩のストレッチが効果的です。例えば、首を左右にゆっくり傾ける、肩を大きく回す、両手を組んで頭上に伸ばすなどの簡単なストレッチが役立ちます。また、眼球ストレッチとして、目を大きく上下左右に動かしたり、遠くと近くを交互に見る運動も効果的です。これらのストレッチは1時間に1回程度、数分間行うだけでも予防効果があります。長時間同じ姿勢を続けないよう、意識的に体を動かす習慣をつけることが重要です。