坐骨神経痛は、坐骨神経が圧迫や刺激を受けることで起こる症状ですが、良くならない時や症状が重いときは医師に診てもらいます。医師は、必要に応じて検査などを行いますが、坐骨神経痛の場合には、神経根症状誘発テストが行われることがあります。
神経根症状誘発テストとはどのようなものなのでしょうか。神経根症状誘発テストのうちのいくつかや診断後の治療法について紹介します。
目次
坐骨神経痛とは
坐骨神経痛は、坐骨神経が圧迫や刺激を受けることで起こる症状です。では、具体的にどのようなメカニズムで起こるのでしょうか?
【神経の圧迫】
坐骨神経は、腰椎から仙骨、お尻、太もも、ふくらはぎ、足先まで伸びています。この経路のどこかで神経が圧迫されると、坐骨神経痛が起こります。
主な神経圧迫の原因には、以下のようなものがあります。
●椎間板ヘルニア
椎間板が飛び出し、神経を圧迫する
●腰部脊柱管狭窄症
背骨の隙間が狭くなり、神経を圧迫する
●梨状筋症候群
梨状筋が硬くなり、神経を圧迫する
●骨腫瘍
骨にできる腫瘍が神経を圧迫する
【神経の刺激】
神経が炎症を起こしたり、直接刺激を受けたりすることによっても、坐骨神経痛が起こります。主な刺激の原因には、以下のようなものがあります。
●糖尿病
糖尿病による神経障害
●帯状疱疹
ウイルスによる神経の炎症
●外傷
骨折や脱臼などによる神経への刺激
坐骨神経痛が疑われたらすべきこと
坐骨神経痛が疑われたらすべきことに、以下のようなものがあります。
様子を見る
坐骨神経痛の症状が軽度の場合、様子を見ることも可能です。ただし、以下の点に注意する必要があります。
●安静にする
長時間の立ち仕事や座り仕事は避け、安静を心がけましょう。
●冷やす温める
痛みが強い場合は冷やし、炎症が落ち着いたら温めるようにしましょう。
●痛み止めを服用する
市販の痛み止めを服用して、症状を緩和することもできます。
しばらく様子を見て症状が改善しない場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
湿布を貼る、体を温める
湿布を貼ったり体を温めたりすることで、血行を促進し痛みを緩和することができます。ただし、以下の点に注意する必要があります。
●適切な湿布を選ぶ
症状に合った湿布を選びましょう。
●長時間貼り続けない
長時間貼り続けると皮膚がかぶれやすくなるため、6時間程度を目安に貼りましょう。
●患部に直接熱を加えない
やけどのリスクがあるため、患部に直接熱を加えるのは避けましょう。
症状が改善しない場合は、湿布や温熱療法だけでは不十分な可能性があります。早めに医療機関を受診しましょう。
医師に診てもらう
坐骨神経痛の症状が強い場合や長引く場合は、必ず医師に診てもらいましょう。医師は、問診や診察、画像検査などを基に、坐骨神経痛の原因を診断し適切な治療法を提案します。
医療機関での主な治療法には、以下があります。
●薬物療法
痛み止め、抗炎症薬、神経ブロック薬など
●理学療法
ストレッチ、マッサージ、運動療法など
●手術療法
椎間板ヘルニアなど神経の圧迫が著しい場合
早めに医療機関を受診することで、適切な治療を受け、症状を改善することができます。また、以下のような場合は、放置しないですぐに医療機関を受診しましょう。
●強い痛みやしびれがある
●排尿・排便障害がある
●足に力が入らない
●発熱がある
坐骨神経痛を調べるテスト
坐骨神経痛を調べるには、様々な検査がありますが、神経根症状誘発テストを紹介します。神経根症状誘発テストとは、病変部に圧迫を加えて症状が生じるかを確認するテストです。
神経根に障害がある場合、その支配領域に痛みやしびれが生じます。
ラセーグテスト
ラセーグテストは、腰痛や坐骨神経痛の症状を調べるために行われる整形外科的な検査の一つです。坐骨神経は、腰から足にかけて伸びる体内で最も太い神経であり、この神経が圧迫や炎症されると、腰臀部から太もも後面、下腿部にかけて痛みやしびれなどの症状が現れます。
ラセーグテストはこのような症状を引き起こしている原因が、坐骨神経の障害にあるかどうかを判断するために役立ちます。
【検査方法】
・患者は仰向けに寝なり、医師などの検査者は患者の脚を持ち上げ痛みが出る角度を測定します。
・股関節と膝関節をそれぞれ90度ずつ屈曲させます。
・膝関節をゆっくりと伸ばしていきます。
【判定方法】
膝を伸ばしていく過程で、以下のいずれかに該当する場合、ラセーグテストは陽性と判定されます。
・太ももの裏側やふくらはぎの裏側に痛みやしびれを感じる。
・膝を70度以下までしか伸ばせない。
・膝を伸ばす際に強い抵抗を感じる。
【陽性反応の意味】
ラセーグテストが陽性の場合、必ずしも坐骨神経痛があるわけではありませんが、坐骨神経の障害が疑われます。坐骨神経痛の原因としては、椎間板ヘルニア、腰椎圧迫骨折、梨状筋症候群などが考えられます。
【注意点】
ラセーグテストはあくまでもスクリーニング検査(病気を見つける目的で行う検査)であり、確定診断には至りません。検査中に強い痛みを感じた場合は、すぐに中止する必要があります。
ラセーグテストは、坐骨神経痛の診断に役立つ有用な検査ですが、あくまでも医師の診察と診断を補助するものであり、自己判断で実施することは避けてください。
SLRテスト
SLRテストは、脊椎や脊髄の状態を評価するために用いられる整形外科的な検査の一つです。「Straight Leg Raising Test」の略称で、日本語では「下肢伸展挙上テスト」とも呼ばれます。
坐骨神経が圧迫されたりすると、腰臀部から太もも後面、下腿部にかけて痛みやしびれなどの症状が現れます。SLRテストはこのような症状を引き起こしている原因が、坐骨神経の障害にあるかどうかを判断するために役立ちます。
これも脚を持ち上げる動作で行い、痛みの出現を確認します。
【検査方法】
・患者を仰向けに寝かせる。
・膝を伸ばして下肢を少しずつ挙げる。
・下肢を上げた後はゆっくりと床に降ろす。
【判定方法】
下肢を少しずつ挙げる過程で、以下のいずれかに該当する場合、SLRテストは陽性と判定されます。
・太もも裏側やふくらはぎの裏側に痛みやしびれを感じる。
・70度以下までしか挙げられない。
・下肢を挙げる際に強い抵抗を感じる。
【陽性反応の意味】
SLRテストが陽性の場合、必ずしも坐骨神経痛があるわけではありませんが、坐骨神経の障害が疑われます。
【注意点】
SLRテストはあくまでもスクリーニング検査であり、確定診断には至りません。検査中に強い痛みを感じた場合は、すぐに中止する必要があります。
SLRテストは、坐骨神経痛の診断に役立つ有用な検査ですが、あくまでも医師の診察と診断を補助するものであり、自己判断で実施することは避けてください。
SLRテストとラセーグテストは、ほぼ同じ検査方法と意味を持つため、混同されることがあります。厳密には、ラセーグテストはSLRテストの一種であり、膝を90度屈曲させた状態で検査を行う点が特徴です。しかし、近年では両者の違いはほとんどなくなり、「SLRテスト」という名称の方が一般的に用いられています。
ブラガードテスト
ブラガードテストは、坐骨神経痛の診断をより詳細に行うために用いられる整形外科的な検査の一つです。主に椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症、坐骨神経痛の更なる絞り込みに役立ちます。
SLRテストで陽性反応が出た場合に、さらに詳しく検査を行うことで、神経根のどの部分が圧迫されているのかを特定することができます。SLRテストで痛みが出た角度で足首を背屈させ、痛みが増すかどうかを確認します。
これにより、坐骨神経痛やヘルニアの可能性が高まります。
【検査方法】
・患者さんをあお向けの状態にする
・SLRと同じように膝を伸ばしながら下肢を持ち上げる
・途中で膝下に神経痛がみられたら、下肢を持ち上げた角度より5°下に降ろす
・5°降ろした状態で足関節を背屈位にする
・疼痛が増悪したら陽性
【陽性反応の意味】
ブラガードテストが陽性の場合、SLRテストよりも特異度が高く(確度が高く)椎間板ヘルニアや腰椎圧迫骨折などが考えられます。また、梨状筋症候群などの他の疾患でも陽性になる可能性があります。
【注意点】
ブラガードテストは、SLRテストと同様に、あくまでもスクリーニング検査であり、確定診断には至りません。ブラガードテストは、SLRテストに加えて行うことで、坐骨神経痛の診断をより詳細に行うことができます。
ブラガードテストは、比較的新しい検査であり、まだ全ての医療機関で実施されているわけではありません。また、検査結果の解釈には専門的な知識が必要となるため、医師による判断が不可欠です。
以上3つのテストは、脊椎や関節の状態を評価できる基本的な方法で、テストでの痛みの出現やその他の情報を総合して判定されます。各テストの結果を1ページにまとめることで、腰痛や坐骨神経痛の性状を詳細に把握できます。
坐骨神経痛の治療法
薬物療法
坐骨神経痛の薬物療法は、痛みやしびれなどの症状を緩和し、炎症を抑えることを目的としています。
【主な薬剤】
●痛み止め
鎮痛剤、非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs)
●抗炎症薬
ステロイド薬
●神経ブロック
神経の周辺に局所麻酔薬やステロイド薬を注射する
●抗てんかん薬
神経の興奮を抑制する薬
【薬物療法の効果】
●症状の緩和
●炎症の抑制
●生活の質の向上
【薬物療法の注意点】
●副作用がある場合がある
●長期服用が必要になる場合がある
●根本的な原因を解決するわけではない
リハビリテーションや装具療法
リハビリテーションや装具療法は、坐骨神経痛の原因となっている問題を改善し、再発を防ぐことを目的としています。
【主な内容】
●ストレッチ
筋肉の緊張をほぐし、血行を促進する。
●筋力トレーニング
弱った筋肉を鍛え、腰椎を安定させる。
●有酸素運動
血行を促進し、痛みを和らげる。
●装具療法
腰椎を支え、神経への圧迫を軽減するコルセットやベルト
【効果】
●痛みやしびれの改善
●再発防止
●生活の質の向上
【注意点】
●効果が出るまでに時間がかかる場合がある
●継続して行う必要がある
●すべての患者に効果があるわけではない
外科的処置
外科的処置は、薬物療法やリハビリテーションで改善しない重症な坐骨神経痛の場合に行われます。
【主な手術】
●椎間板ヘルニア手術
飛び出した椎間板を取り除く
●腰部脊柱管狭窄症手術
背骨の隙間を広げる
●梨状筋症候群手術
梨状筋を切断する
【効果】
●強い痛みやしびれの改善
●神経への圧迫の解消
●生活の質の向上
【注意点】
●リスクが伴う
●術後にリハビリテーションが必要になる
●すべての患者に適しているわけではない
坐骨神経痛の治療法は、症状や原因によって異なります。医師と相談し、自分に合った治療法を選択することが大切です。
まとめ
坐骨神経痛は、坐骨神経が圧迫や刺激を受けることで起こる症状です。坐骨神経痛が疑われたら、様子を見たり、湿布をはったり、体を温めたりといった対処法がありますが、良くならない時は医師に診てもらいます。
医師は、必要に応じて検査などを行いますが、坐骨神経痛を調べるには、神経根症状誘発テストが行われる場合があります。神経根症状誘発テストには、ラセーグテスト、SLRテスト、ブラガードテストなどがあります。
これらのテストを経て坐骨神経痛の原因を絞り、その他の診断と総合して治療がなされます。