この記事は「日本身体運動科学研究所 代表理事・笹川 大瑛」の監修のもと作成されています。
椎間板ヘルニアが進行すると、頻尿、尿意を感じにくくなる、尿が出にくい、尿漏れといった排尿障害が起こることがあります。これは神経が圧迫されることで、膀胱を制御する神経が障害されることが原因です。
さらに、放置すると排尿障害が慢性化したり、悪化したりする可能性もあります。この記事では、椎間板ヘルニアによる神経圧迫がなぜ尿漏れを引き起こすのか、どのような症状に注意すべきか、そして適切な治療法について専門家の知見をもとに詳しく解説します。腰椎椎間板ヘルニアによる神経の圧迫は、膀胱直腸障害という重篤な状態を引き起こすため、正しい知識を身につけることが重要です。
目次
椎間板ヘルニア 尿漏れが起こる神経圧迫のメカニズム
腰椎椎間板ヘルニアによる尿漏れは、椎間板が神経根を圧迫することで膀胱を制御する神経が障害されることが原因です。腰椎は5つの椎骨で構成されており、それぞれの間にクッションの役割をする椎間板があります。
一方で、ヘルニアの発症メカニズムについて、専門家は以下のように説明しています。
椎間板が押しつぶされて出てきてしまう状況をヘルニアと言います。この背骨のところに神経が通っていて、この神経に触れることによって、様々な症状が起こります。
その結果、椎間板ヘルニアによる神経圧迫は、以下のような症状を引き起こす可能性があります:
神経圧迫による症状 | 具体的な症状 | 緊急度 |
---|---|---|
腰痛や下半身のしびれ | ヘルニアが神経根を圧迫すると、腰痛や下半身のしびれが起こる傾向があります | 中 |
排尿障害 | 膀胱を制御する神経が圧迫されることで、頻尿、尿意を感じにくくなる、尿が出にくい、尿漏れが起こる可能性があります | 高 |
下肢の筋力低下や麻痺 | 神経が圧迫されることで、下肢の筋力低下や麻痺が起こることがあります | 高 |
椎間板ヘルニアの主な症状をチェック|尿漏れ以外にも注意すべきサイン
椎間板ヘルニアは腰痛だけでなく、進行すると様々な神経症状を引き起こします。このため、以下の症状が現れた場合は、神経が圧迫されている可能性が高く、早期の医療機関での診断が重要になります。
運動麻痺(足の動きに関する症状)
神経の圧迫により足首を動かしたり歩いたりする筋肉に影響が出ると、運動麻痺が起こります。足首が上がらなくなったり、つまずきやすくなったりする症状が特徴的です。
足首が上がらなくなったり、つまずいたりするわけです。気づかずにつまづいてしまう人も結構います。年齢が高くなるとつまずいて転んで骨折ということも起きますので、足首が動かなくなったりした場合は、すぐ病院に行って診てもらった方がいいです。
これは神経が傷ついている明らかなサインであり、すぐに整形外科を受診すべき症状です。
しびれ(感覚障害)
下肢のしびれは椎間板ヘルニアの代表的な症状の一つです。砂嵐のような感覚と表現されることもあり、触っている感覚がなくなったりします。このしびれも神経が圧迫されている可能性を示しています。
膀胱直腸障害(排尿・排便の問題)
おしっこが出にくい、残尿感がある、尿漏れが起こるといった膀胱直腸障害について、専門家は以下のように説明しています。
おしっこが出にくいとか、なんかおしっこしたんだけどなんか残っているなとか、そういった感じです。膀胱を緩めておしっこを出したりとか、そういった機能が神経にもあるのですが、そういったところが衰えると、おしっこが出にくくなったりするのです。そうするとこの場合、手術が必要な状況になります。
これは手術治療が必要な状況を示す重要なサインです。膀胱を制御する神経の機能が低下することで、これらの症状が現れます。
椎間板ヘルニアの治療法|保存的治療から手術治療まで
椎間板ヘルニアの治療法は症状の程度や原因に応じて選択されます。一般的に、軽度の場合は保存的治療から開始し、重篤な神経症状がある場合は手術治療が検討されます。
また、治療の選択において最も重要なのは、腰を支える筋肉の強化であると専門家は指摘しています。
保存的治療による症状改善
まず第一に推奨されるのは運動療法です。腰を支えている筋肉(腸腰筋、多裂筋、腹筋群)をしっかりと鍛えることで、椎間板への負担を軽減し、症状の改善が期待できます。
腰を支えている筋肉をしっかり働かせる。また、お腹の周りにも筋肉というのがありますので、そこをしっかり鍛えてあげるというのが第一です。まず1つは、この腰を支える筋肉を鍛えてあげましょうということです。
さらに、痛みが強い場合には、ブロック注射などの薬物治療も選択肢となります。炎症を抑える薬や痛み止めを神経の近くに注射することで、症状の緩和を図ります。ただし、効果には個人差があり、すべての患者様に同様の効果が期待できるとは限りません。
手術治療が必要なケース
以下のような場合には、手術治療が検討されます:
- 保存的治療で改善しない重篤な痛みやしびれ
- 運動麻痺(足の筋力低下)
- 膀胱直腸障害(尿漏れ、排尿困難など)
現在では内視鏡を使用した低侵襲手術も普及しており、傷口を小さくすることで術後の回復を早めることが可能になっています。その結果、手術後は必ずリハビリテーションを行い、腰を安定させる筋肉を段階的に強化していきます。
専門家が警告する術後の注意点とリハビリテーション
手術治療後のリハビリテーションについて、専門家は重要な警告を発しています。
手術した後、すぐに急激に強い運動を行うと再発するリスクというのが非常に高いのです。なぜかというと、一回ヘルニアが出ると、この通路みたいなものが出来上がってしまうのです。だから手術してすぐに強い運動すると、また再発する可能性があります。
このため、手術後は急激に強い運動を行うと再発リスクが高まるため、段階的なリハビリテーションが不可欠です。一度ヘルニアが起こると通路ができてしまうため、適切な管理なしに強い負荷をかけると再発の可能性があります。
腰を安定させる筋肉(腸腰筋、多裂筋、腹斜筋、腹横筋)の段階的な強化が、再発防止の鍵となります。
緊急受診が必要な危険なサイン
以下の症状が現れた場合は、緊急に整形外科または泌尿器科を受診することが重要です:
- 尿や便が出にくい、または漏れてしまう
- 足首が上がらなくなった、つまずきやすくなった
- 下肢の感覚が著しく低下した
- 筋力低下が急速に進行している
これらの症状は神経の重篤な損傷を示している可能性があり、放置すると後遺症が残るリスクが高まります。早期の診断と適切な治療により、症状の改善や悪化の防止が期待できます。特に膀胱直腸障害は、MRI検査による詳細な診断と、場合によっては緊急手術が必要となる重篤な状態です。
日常生活でできる予防・改善策
椎間板ヘルニアの予防や症状の管理において、日常生活での取り組みが重要な役割を果たします。このため、以下のような対策が有効とされています:
適切な姿勢の維持
長時間のデスクワークや重労働は腰痛の原因となります。定期的な姿勢の変更や適度な休憩を取り入れることで、椎間板への負担を軽減できます。また、正しい座り方や立ち方を身につけることも重要です。
筋力トレーニング
腰を支える筋肉群(特にコアマッスル)を段階的に強化することで、椎間板への負担を分散し、症状の改善や再発防止に役立ちます。ただし、急激な運動は避け、専門家の指導のもとで行うことが推奨されます。
体重管理
適正体重の維持は椎間板への負担軽減に直結します。バランスの取れた食事と適度な運動により、健康的な体重管理を心がけましょう。体重の増加は腰椎への負荷を増大させ、ヘルニアの悪化要因となる可能性があります。
椎間板ヘルニア 尿漏れに関するよくある質問
Q. 椎間板ヘルニアが進行すると、排尿障害が起こることはありますか?
A. はい、椎間板ヘルニアが進行すると、頻尿、尿意を感じにくくなる、尿が出にくい、尿漏れといった排尿障害が起こる可能性があります。これは神経を圧迫することで膀胱を制御する神経が影響を受けるためです。
Q. 尿漏れなどの排尿障害が出た場合、すぐに手術が必要ですか?
A. 排尿障害は緊急性の高い症状です。尿や便が出にくい、漏れてしまうという症状が出た場合は緊急手術が必要なこともあり、放置すると後遺症の可能性が高まります。速やかに医療機関を受診してください。
Q. 腰椎椎間板ヘルニアではどのような症状が見られますか?
A. 主な症状として腰痛、下肢のしびれ、筋力低下があります。進行すると排尿困難(頻尿や残尿感、失禁など)が生じるケースもあります。どの神経が圧迫されるかによって症状の範囲は異なります。
Q. 椎間板ヘルニアによる神経圧迫はどのような症状を引き起こしますか?
A. 神経圧迫により腰痛や下半身のしびれ、下肢の筋力低下や麻痺、そして膀胱を制御する神経が圧迫されることで頻尿、尿意を感じにくくなる、尿が出にくい、尿漏れといった排尿障害が起こる可能性があります。
Q. 手術後のリハビリテーションはなぜ重要なのですか?
A. 手術後に急激に強い運動を行うと再発するリスクが非常に高いためです。一度ヘルニアが出ると通路ができてしまうため、段階的なリハビリで腰を安定させる筋肉を適切に強化することが再発防止に不可欠です。
Q. 椎間板ヘルニアの予防に効果的な方法は何ですか?
A. 腰を支える筋肉(腸腰筋、多裂筋、腹筋群)の強化、適切な姿勢の維持、体重管理が重要です。長時間のデスクワークでは定期的な姿勢変更や休憩を取り入れ、重労働時は正しい動作を心がけることが予防に効果的です。
Q. どのような場合に緊急受診が必要ですか?
A. 尿や便が出にくい・漏れる、足首が上がらない・つまずきやすい、下肢の感覚低下、急速な筋力低下などの症状が現れた場合は緊急受診が必要です。これらは神経の重篤な損傷を示している可能性があります。
まとめ|椎間板ヘルニア 尿漏れの重要ポイント
椎間板ヘルニアによる尿漏れや排尿障害は、神経圧迫という重篤な状態を示している可能性があります。専門家が指摘するように、これらの症状は膀胱直腸障害として分類され、緊急性の高い医学的問題です。
症状を放置せず、適切な医療機関での診断と治療を受けることが、症状の改善と後遺症の予防につながります。また、日常生活での予防策も併せて実践し、健康な腰椎を維持していきましょう。特に、腰を支える筋肉の強化と適切な姿勢の維持は、長期的な健康管理において不可欠な要素です。
※この記事は医療情報の提供を目的としており、特定の治療を推奨するものではありません。症状がある場合は必ず医療機関を受診し、医師の診断を受けてください。
参考情報: