腰痛の治療では、問診、診察、検査をして疾患を特定(診断)し、診断に基づいて投薬や運動療法、理学療法、手術、リハビリなどが行われます。整形外科など医療機関で腰痛の治療を受ける場合、たとえば、レントゲン検査では費用はどのくらいかかるのでしょうか。
医療機関での治療費の決まり方、特に、腰痛を治療する場合の各種料金について解説します。
治療費の決まり方
国民健康保険など公的医療保険が適用される診療を保険診療といいます。保険診療では、治療費は患者と公的医療保険から支払われます。
患者は医療機関の窓口で治療費総額の3割を支払い、公的医療保険からは残りが支払われます。
保険診療の際の治療費総額のことを、診療報酬といいます。診療報酬は、医療行為を行った医療機関や投薬を行った薬局の収入の総和です。
診療報酬には一定の計算方法があるので、この内容を知れば治療費の決まり方もわかります。
保険診療の対象となるものは健康保険法で決まっていますが、簡単に言えば病気やけがです。美容整形や妊娠、出産、予防接種などは病気でもけがでもないので、健康保険の対象外になっています。
腰痛の際に通う人が多い整骨院や接骨院は病院ではありませんが、捻挫や骨折の治療がなされるのであれば、それはケガの治療に当たるので保険診療となります。
診療報酬について
保険診療では、診療報酬点数表に基づいて計算される点数によって診療報酬が決められます。診療報酬が決まれば、患者は医療機関の窓口で診療報酬の3割を負担し、公的医療保険が残りを負担します。
診療報酬の点数は、一つ一つの医療行為ごとに厚生労働大臣が細かく決めており、2年に1度厚生省の審議会で見直しが行われています。診療報酬には、医師や看護師等医療従事者の医療行為に対する技術料や医療材料費、薬剤師の調剤行為に対する技術料や薬剤費、医療行為に伴って行われた検査の費用などが含まれています。
なお、以下で具体的な診療報酬点数を掲載していますが、これは令和4年に改訂が行われて令和6年5月末まで使用される点数表に基づいています。令和6年6月からは改定された新たな点数表が使用されます。
令和6年の改定では、初診料および再診料の増額、処方箋料の減額、マイナンバー対応のための加算、医療スタッフの賃上げ対策加算などがなされています。
診療報酬点数表について
診療報酬は点数表によって計算されます。点数表には、医科診療報酬点数表、歯科診療報酬点数表、調剤報酬点数表、診断群分類点数表の4つがあります。
医科診療報酬点数表は内科や外科などの医科診療の際に、歯科診療報酬点数表は歯科診療の際に、調剤報酬点数表は薬局調剤の際に使用されます。診断群分類点数表は入院の際に使用されます。
腰痛の場合には整形外科など病院やクリニックを受診しますので、主に、医科診療報酬点数表での計算となります。医科診療報酬点数表は細かく項目が分かれています。
細分化された項目の中からいくつか例示すると、初診料、再診料、入院基本料、特定入院料、薬剤料、検体検査料、生体検査料、エックス線診断料、調剤料、注射料、リハビリテーション料、処置料、手術料、神経ブロック料、等々があります。
上記のうちの初診料を見てみると、基本は288点となっています。1点は10円に換算されますから、288点は2,880円を表しています。
公的医療保険制度では患者は医療機関の窓口で診療報酬の3割を負担しますので、その額は860円(10円未満四捨五入)となります
初診料は基本が288点となっていますが、オンライン診療の初診料は251点、紹介率の低い病院の初診料は214点、診療時間外や休日だと点数が加算されるなど様ざまな場合の点数が設定されています。診療報酬点数表には初診料とは別に再診料という項目があります。
初診料は、医師が患者のカルテを初めて作り、診察、診断する際の料金です。同じ病気が継続していて2回目以降に診察する際の料金を再診料といいます。
病気が完治した後に、別の病気や前と同じ病気に再度罹患して、同じ病院に通う場合は初診となります。
治療費の例
保険診療を受けた際の診療報酬について具体的な事例を紹介します。
腰痛で病院に行ったところ、腰椎の状態を診るためにエックス線検査を行うことになりました。エックス線検査はレントゲン検査とも呼ばれますが、エックス線を利用して骨や関節の炎症を見つけるためにおこなわれる検査です。
この場合の診療報酬点数は、脊椎のアナログでの単純撮影が60点、撮影した画像による診断が85点、単純撮影画像の管理が57点、以上合計202点となります。1点10円なので、エックス線診断分の診療報酬の金額は2,020円で、患者の窓口負担はその3割の610円です。
この金額はあくまでもエックス線診断分であって、その他に初診料や処置が行われれば処置料、薬が処方されれば薬剤料が加算されます。
腰痛治療の料金
腰痛の保険治療のうちエックス線検査の料金については先に述べましたが、その他の腰痛治療の料金についても紹介します。なお、以下で示す料金はあくまで目安であって、各患者の症状や医療機関の対応などによって異なってきます。
初診および再診の料金
初めて訪れる医療機関では初診料、何度も訪れているところでは、新たなケガや病気の治療では初診料、治療中の再度の訪問では再診料がかかります。初診および再診の基本の診療報酬点数は以下のとおりです。
診察では、以下の初診料または再診料のほかに、疾患ごとに異なる指導管理料がかかりますので、1,200円前後になります。
診療報酬点数 | 診療報酬(円)(1点10円) | 患者負担(3割) | |
初診 | 288点 | 2,880円 | 864円 |
再診 | 73点 | 730円 | 219円 |
検査の料金
腰痛では、エックス線検査や CT検査、超音波(エコー) 検査、MRI検査などがよく行われます。
エックス線検査は、エックス線を利用して画像を作成し、骨や関節の炎症を見つけるために行われます。エックス線検査では骨しか見ることができませんので、骨以外の筋肉や靱帯などの状態はわかりません。
CT検査も患部にエックス線をあてて得られたデータをコンピューターで計算して断層像を撮影するというものです。エックス線を使うので被ばくは免れないのですが、エックス線検査では得られない骨の3D構造が見られます。
骨の内部の詳細なところまで立体的に見て確認したい場合に、CTは使われます。
超音波(エコー)検査では、骨だけでなく骨同士をつないでいる靱帯、骨を動かす筋、骨と筋の付着部である腱や、神経、血管なども見えます。エコーは放射線(エックス線は放射線の一種)による被曝が全くないため体への悪影響もなく、診察室でリアルタイムに画像を見ながら診断ができます。
MRIは「Magnetic(磁気)」「Resonance(共鳴)」「Image(画像)」を略したもので、磁石の力を利用して画像を作り出します。MRIは脊髄や椎間板などの軟部組織の描出に優れています。そのため、椎間板ヘルニアの脱出具合を評価したり、脊柱菅狭窄症による神経の圧迫を評価したりすることができます。
MRIによる検査は受診できる施設が限られており、予約をしてからでないと受けられない場合があります。
エックス線検査や 超音波(エコー) 検査、MRI検査の診療報酬は以下のようになります。
撮影 | 診断 | 画像管理 | 合計 | 診療報酬総額 | 3割負担 | |
エックス線診断 | 60点(アナログ単純撮影) | 85点 | 57点 | 202点 | 2,020円 | 606円 |
CT | 1,020点 | 450点 | - | 1,470点 | 14,700円 | 4,410円 |
エコー | 530点(断層撮影胸腹部) | - | - | 530点 | 5,300円 | 1,590円 |
MRI | 1,620点 | 450点 | - | 2,070点 | 20,700円 | 6,210円 |
手術の料金
腰痛の治療で手術が行われることが多い疾患には、腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症があります。
腰椎椎間板ヘルニアは、背骨の骨と骨の間にある椎間板が飛び出してその周りの神経を圧迫することで、腰の痛みや痺れ等さまざまな症状が現れる病気です。腰椎椎間板ヘルニアの手術は、飛び出した椎間板を取り除いたり、椎間板内に薬を注入して小さくするために行われます。
全身麻酔をしての内視鏡下手術や局所麻酔での注射などで行われます。
腰部脊柱管狭窄症は、腰椎(背骨の中で腰の部分)の中を通る神経が入っている管(脊柱管)が部分的に狭くなり、神経が圧迫されて下肢のしびれや疼痛、歩行障害などをきたす病気です。腰部脊柱管狭窄症の手術は、主に、肥厚した黄色靭帯などを切除して脊柱管を広げるために行われます。
全身麻酔をしての内視鏡下手術が主流です。
腰椎椎間板ヘルニアと腰部脊柱管狭窄症の手術をする場合の診療報酬点数は、以下のとおりとなっています。この金額は、あくまで手術分ですので、実際にはこのほかにも入院費用やその他諸々加算されます。
手術 | 診療報酬額 | 3割負担額 | |
腰椎椎間板ヘルニア | 75,600点(内視鏡下椎間板摘出(切除)術, 前方摘出術) | 756,000円 | 226,800円 |
腰部脊柱管狭窄症 | 101,910点(内視鏡下脊椎固定術) | 1,019,100円 | 305,730円 |
リハビリの料金
リハビリテーションとは機能回復訓練のことです。理学療法士や作業療法士が、患者に個別で訓練を行った場合に診療報酬点数がつきます。
理学療法士は、ケガや病気などで身体が思うように動かない人に対して、立つ、座る、歩くなどの基本的動作能力の回復をサポートします。
作業療法士は、基本的動作能力からさらに進んで、応用的動作能力の回復をサポートします。手や足、指など体の各部の細かい動作を取り戻します。
診療報酬点数表では、リハビリは、20分当たり1単位として点数が定められています。1時間(60分)だと3単位分の点数がカウントされます。
点数 | 診療報酬額 | 3割負担 | |
運動器リハビリテーション料 | 185点(1単位) | 1,850円 | 555円 |
まとめ
腰痛診療の際の治療費について述べてきました。公的医療保険が受けられる保険診療では、治療費総額のことを診療報酬といいます。
診療報酬は、国が定める診療報酬点数表により決められており、点数表は2年ごとに改定されます。腰痛の診療では、一般に、初診料、再診料、検査料、手術料、リハビリ料などがかかってきます。
それらの点数、診療報酬、窓口負担分(診療報酬の3割)について、具体的な検査や疾患を例示して見てきました。
腰痛治療はさまざまですが、その治療は診療報酬点数表に掲載されています。診療報酬点数表は厚生労働省のサイトにアクセスすれば見ることができます。
医科診療報酬点数表は310ページ、歯科診療報酬点数表は79ページと見慣れてなければわかりにくいですが、参考になります。