この記事は「日本身体運動科学研究所 代表理事・笹川 大瑛」の監修のもと作成されています。
五十肩の痛みで「冷やすべきか、温めるべきか」迷っていませんか? 実は、症状の段階によって対処法が全く異なります。急性期(痛みや炎症が強い初期)は患部を冷やし、慢性期(痛みが軽減した時期)は温めることが効果的です。この記事では、五十肩の症状別の正しい対処法、具体的な冷やし方・温め方、やってはいけないNG行動まで、専門家の知見をもとに詳しく解説します。正しい知識で五十肩の痛みと上手に付き合い、早期改善を目指しましょう。
目次
五十肩(肩関節周囲炎)とは?基本的な知識と原因
五十肩は正式には「肩関節周囲炎」と呼ばれ、50歳前後に多く発症することからこの名前がついています。肩関節の周囲にある組織に炎症が起こり、痛みや可動域の制限が生じる疾患です。
明確な原因が特定できないことも五十肩の特徴の一つですが、加齢による関節や筋肉の変化、血行不良、ホルモンバランスの変化などが関与していると考えられています。
また、厚生労働省の肩関節周囲炎診療ガイドラインも参考になります。
五十肩の3つの進行段階
段階 | 期間 | 主な症状 | 対処法 |
---|---|---|---|
急性期 | 発症〜約2週間 | 強い痛み、炎症、夜間痛 | 冷やす |
慢性期 | 約2週間〜半年 | 可動域制限、鈍い痛み | 温める |
回復期 | 半年〜1年 | 徐々に可動域改善 | 温める+運動 |
五十肩と肩こりの違いは、五十肩が関節周囲の炎症によるものであり、腕を上げられない、夜間に痛みで目が覚めるなどの特徴的な症状があることです。一方、肩こりは主に筋肉の緊張による症状で、マッサージなどで改善が期待できます。
五十肩を冷やす・温める判断基準と症状の時期で決まる対処法
五十肩の対処法は症状の段階によって正反対になる可能性があります。
- 急性期(発症初期):炎症が強いため「冷やす」
- 慢性期・回復期:血行促進のため「温める」
間違った対処法を行うと症状が悪化する可能性があるため、現在の症状の段階を正しく把握することが重要です。痛みの程度、可動域の制限、発症からの期間を総合的に判断して適切な方法を選択しましょう。
【急性期】炎症が強い時期は「冷やす」のが鉄則
五十肩の急性期は発症から約2週間の期間で、強い痛みと炎症が特徴です。この時期は患部を冷やすことで炎症を抑制し、痛みを緩和することが可能とされています。
急性期の痛みや炎症が強い初期には、患部を冷やすことが推奨されます。炎症を抑えるために、患部を冷やす(アイシング、冷湿布など)と良いでしょう。
急性期の症状の特徴
- 激しい痛みが続く
- 夜間痛で睡眠が妨げられる
- 腕を少し動かしただけでも痛む
- 患部に熱感がある
- 安静時でも痛みがある
正しい冷やし方と施術方法
適切な冷やし方を実践することで、炎症を効果的に抑えることが期待できます。
方法 | 具体的なやり方 | 時間・頻度 |
---|---|---|
アイシング | 氷と水をビニール袋に入れ、タオルで包んで患部に当てる | 10-15分×1日3-4回 |
冷湿布 | 市販の冷感湿布を患部に貼付 | 1日1-2回、4-6時間 |
冷却パック | 冷凍庫で冷やした専用パックを使用 | 10-15分×1日3-4回 |
急性期でやってはいけないNG行動
- 温める行為:入浴、温湿布、マッサージは炎症を悪化させる可能性があります
- 無理な運動:痛みを我慢してストレッチや体操を行うことは避けましょう
- 長時間の冷やしすぎ:30分以上の連続冷却は組織を損傷する危険性があります
- アルコール摂取:血管拡張により炎症が増強される可能性があります
【慢性期・回復期】痛みが和らいだら「温める」で血行促進
急性期を過ぎると慢性期に移行します。この時期は炎症が落ち着き、主に可動域の制限が問題となります。血行を促進し、筋肉の柔軟性を高めるために温めることが効果的とされています。
慢性期(痛みや炎症が軽減し、関節の可動域が狭まっている)では、血行を良くし、筋肉の柔軟性を高めるために温める(入浴、ホットパック、カイロなど)と良いでしょう。
慢性期・回復期の症状の特徴
- 激しい痛みは軽減している
- 肩の可動域が狭くなっている
- 動かすときに違和感や軽い痛みがある
- 筋肉のこわばりを感じる
- 夜間痛は改善傾向
効果的な温め方と接骨院での施術
適度な温熱刺激により血行の改善が期待され、筋肉の緊張がほぐれる可能性があります。
方法 | 具体的なやり方 | 注意点 |
---|---|---|
入浴 | 38-40℃のお湯に10-15分間浸かる | のぼせに注意、水分補給を忘れずに |
ホットパック | 温めたタオルや市販のホットパックを使用 | 低温やけどを防ぐため、タオルで包む |
温湿布 | 温感タイプの湿布を患部に貼付 | 皮膚の状態を定期的にチェック |
カイロ | 使い捨てカイロを衣服の上から当てる | 直接肌に触れないよう注意 |
慢性期におすすめのストレッチとリハビリ
温めた後にゆっくりとしたストレッチを行うことで、可動域の改善が期待できます。
- 振り子体操(Codman体操):腕を前後左右に振る
- 壁押し体操:壁に手をついて肩甲骨を動かす
- タオル体操:タオルを使って腕を上げる練習
湿布はどっちを選ぶ?冷湿布と温湿布の使い分け
市販されている湿布には冷湿布と温湿布がありますが、実際の温度を変える効果はそれほど高くありません。主な効果は含まれている消炎鎮痛薬によるものです。
冷湿布と温湿布の特徴
種類 | 成分 | 適用時期 | 効果 |
---|---|---|---|
冷湿布 | メントール、消炎鎮痛薬 | 急性期 | 冷感、炎症抑制 |
温湿布 | カプサイシン、消炎鎮痛薬 | 慢性期 | 温感、血行促進感 |
湿布選びよりも、症状の段階に応じた適切な温冷処置の方が重要とされています。
五十肩の悪化を防ぐために日常生活で気をつけること
五十肩の回復を促進し、症状の悪化を防ぐための日常生活での注意点をご紹介します。
生活習慣の改善ポイント
- 適度な運動:痛みの範囲内で肩を動かし続ける
- 良い姿勢の維持:デスクワーク時の姿勢に注意
- 十分な睡眠:患側を下にして寝ることを避ける
- ストレス管理:筋肉の緊張を和らげる
- 栄養バランス:炎症を抑える食品を摂取
やってはいけない行動
- 痛みを我慢した激しい運動
- 長期間の安静(完全に動かさない)
- 不適切なマッサージ
- 無理な姿勢での作業
専門家の見解:受診の目安と整形外科での治療法
五十肩の治療は段階的なアプローチが重要です。急性期は安静と冷却、慢性期は温熱療法と可動域訓練を組み合わせることで、多くの患者さんで症状の改善が期待できます。
医療機関を受診すべき目安
- 強い痛みが2週間以上続く
- 日常生活に大きな支障がある
- 夜間痛で睡眠が取れない
- セルフケアで改善が見られない
- 腕の感覚に異常がある
日本整形外科学会の五十肩診療指針で最新情報を確認できます。
医療機関での治療選択肢
治療法 | 内容 | 適用時期 |
---|---|---|
薬物療法 | 消炎鎮痛薬、筋弛緩薬 | 全期間 |
理学療法 | 温熱療法、運動療法 | 慢性期以降 |
注射療法 | ステロイド注射、ヒアルロン酸注射 | 症状に応じて |
まとめ:五十肩の「冷やす・温める」を正しく理解して早期改善へ
五十肩の対処法は症状の段階によって決まります。
急性期(発症初期)は炎症を抑えるために「冷やす」、慢性期・回復期は血行を促進するために「温める」ことが基本です。間違った対処法は症状を悪化させる可能性があるため、現在の症状を正しく把握することが重要です。
セルフケアで改善が見られない場合や、日常生活に大きな支障がある場合は、早めに医療機関を受診することをおすすめします。適切な治療と正しいセルフケアを組み合わせることで、五十肩の症状改善と早期回復が期待できます。
五十肩は適切な対処により改善が見込める疾患です。正しい知識を持って、焦らずに治療に取り組みましょう。
五十肩に関するよくある質問
Q. 五十肩は冷やすべき?温めるべき?
A. 症状の段階によって異なります。急性期(痛みや炎症が強い初期)は冷やし、慢性期(痛みが軽減した時期)は温めることが効果的です。発症からの期間と症状の強さを目安に判断してください。
Q. 五十肩の急性期はどのように冷やせばよいですか?
A. アイシングや冷湿布を使用して炎症を抑えます。氷と水をビニール袋に入れ、タオルで包んで10-15分間患部に当てます。ただし、長時間の冷やしすぎは筋肉の硬直を招くため注意が必要です。
Q. 五十肩の慢性期の温め方を教えてください
A. 入浴、ホットパック、カイロなどで血行を良くし、筋肉の柔軟性を高めます。38-40℃のお湯に10-15分間浸かったり、温めたタオルを患部に当てたりします。温めすぎによる低温やけどに注意してください。
Q. 五十肩で医療機関を受診する目安はありますか?
A. 強い痛みが2週間以上続く、日常生活に大きな支障がある、夜間痛で睡眠が取れない、セルフケアで改善が見られない場合は医療機関を受診しましょう。個人差もあるため、専門家に相談することをおすすめします。
Q. 五十肩と肩こりの違いは何ですか?
A. 五十肩は関節周囲の炎症による疾患で、腕を上げられない、夜間痛があるなどの特徴があります。一方、肩こりは主に筋肉の緊張による症状で、マッサージなどで改善が期待できます。五十肩は放置すると症状が長期化する可能性があります。
Q. 五十肩の症状はどのくらいで改善しますか?
A. 一般的に急性期は2週間程度、慢性期は半年程度、回復期を含めて1年程度で改善することが多いです。ただし、個人差があり、適切な治療を受けることで回復期間を短縮できる可能性があります。症状が長期化する場合は専門医に相談してください。
Q. 五十肩の予防法はありますか?
A. 日頃から肩関節の可動域を保つストレッチ、良い姿勢の維持、適度な運動、十分な睡眠、ストレス管理などが予防に効果的です。デスクワークが多い方は、定期的に肩甲骨を動かすエクササイズを取り入れることをおすすめします。