この記事は「日本身体運動科学研究所 代表理事・笹川 大瑛」の監修のもと作成されています。
椎間板ヘルニアは、ある日突然激しい痛みに襲われることがあります。「昨日まで何ともなかったのに、急に腰が痛くて動けなくなった」という経験はありませんか?実は椎間板ヘルニアは、重い物を持ち上げた際やくしゃみをした時など、腰に負担がかかる動作がきっかけで突然症状が現れることがあります。これは「急性型ヘルニア」と呼ばれ、激痛が起こり歩けなくなるほどの症状を引き起こすこともあります。しかし、安静にしていれば徐々に痛みは軽減することが多いのも特徴です。本記事では、ヘルニアが急になる原因や症状、そして適切な対処法について詳しく解説します。
椎間板ヘルニアって言われて腰痛がひどくなっていくと、一番酷くなった症状というのはもう足が動かなくなったりとかするんですよね。それは何で起こるのかとはどういった治療法があるのかという話をしていきたいと思います。
目次
急にヘルニアになった!これってどんな状態?
まず「ヘルニア」という言葉について正しく理解しましょう。ヘルニアとは、本来あるべき場所から組織が飛び出してしまう状態を指します。椎間板ヘルニアの場合、背骨と背骨の間にあるクッションの役割をする「椎間板」の中身が飛び出してしまう状態です。
腰椎(腰の背骨)は5つあり、それぞれの間に椎間板があります。この椎間板には、ゼリー状の柔らかい組織が入っており、高い弾力性を持っています。しかし、腰に負担がかかることでこの組織が後方に押し出され、飛び出してしまうのです。
このように飛び出した椎間板が、背骨の中を通る神経を圧迫することで、様々な症状が引き起こされます。特に急に発症するヘルニアは、激しい痛みを伴うことが多く、日常生活に大きな支障をきたします。
多くの方が経験する「椎間板ヘルニアが急になる」現象は、日常生活の中での何気ない動作がきっかけとなることが少なくありません。
ヘルニアのタイプ | 特徴 | 主な症状 |
---|---|---|
急性型 | 突然発症し、激しい痛みを伴う | 激しい腰痛、下肢のしびれ、歩行困難 |
慢性型 | 徐々に症状が進行する | 持続的な腰痛、坐骨神経痛、足のしびれ |
無症状型 | 症状がほとんど現れない | MRIなどで偶然発見されることが多い |
なぜ急に?ヘルニアの主な原因とメカニズム
ヘルニアが急に発症するのは、腰椎に加わる急激な負担が主因です。具体的には以下のケースが考えられます。
ヘルニアが急になる主な原因
急に重いものを持ち上げると、椎間板に負担がかかり、ヘルニアを引き起こすことがあります。特に前かがみの姿勢で持ち上げると、腰椎に大きな圧力がかかります。例えば、床に落としたスマホを拾う時でも、不適切な姿勢で行うと腰に負担がかかるのです。
くしゃみや咳
信じられないかもしれませんが、くしゃみや咳など、腹部に急激な圧力がかかる動作も、椎間板ヘルニアの引き金になることがあります。特に腰に問題を抱えている方は注意が必要です。
不適切な姿勢
長時間の前かがみや腰を曲げる姿勢は、椎間板に負担をかけ続けます。デスクワークや長時間の運転など、日常生活の中での不適切な姿勢が、時間をかけて椎間板を弱らせ、ある日突然症状として現れることがあります。
加齢による変化
日本整形外科学会の統計によると、ヘルニアは40〜50代の男性に多いとされていますが、若い世代でも発症することがあります。年齢を重ねるにつれて、椎間板は水分を失い、弾力性が低下します。これにより、通常の動作でも椎間板が損傷しやすくなり、ヘルニアのリスクが高まります。
運動不足と肥満
運動不足により腰回りの筋肉が衰えると、腰椎への負担が増加します。また、肥満は腰椎に常に余分な重さがかかる状態を作り出し、椎間板に過度の圧力をかけます。この二つの要素が組み合わさると、ヘルニアのリスクは更に高まります。
このように、椎間板ヘルニアが急になる場合は、適切な対処法を知っておくことが重要です。
椎間板ヘルニアは、日常生活のちょっとした動作が引き金となって急に発症することがあります。特に腰に負担をかける姿勢や動作には注意が必要です。
要注意!急なヘルニアの代表的な症状チェックリスト
椎間板ヘルニアが急に悪化した場合、様々な症状が現れます。中でも特に注意が必要なのが以下の症状です。
激しい腰痛
最も一般的な症状は腰の激痛です。突然起こることが多く、「腰を刺されるような」「電気が走るような」痛みとして表現されることもあります。この痛みは、立っているのも困難なほど強いことがあります。
坐骨神経痛
お尻から太ももの裏側、ふくらはぎ、足先にかけて痛みやしびれが広がることがあります。これは坐骨神経が圧迫されることで起こる症状で、片側だけに現れることが多いのが特徴です。
下肢のしびれや痛み
ヘルニアが神経を圧迫することで、足にしびれや痛みが生じることがあります。「電気が走るような」「ピリピリする」といった感覚や、触っている感覚が鈍くなるといった症状が現れることもあります。
筋力低下や知覚障害
神経圧迫が強くなると、足の筋肉の力が弱くなったり、感覚が鈍くなったりすることがあります。特に足首が上がりにくくなる(つま先が引っかかってつまずきやすくなる)症状は、神経が明らかに傷ついている可能性があり、専門医の診察が必要です。
足首が上がらなくなったりとか足がつまずいたりとかするわけですね。であの気づかずにですねこうつまずいちゃったっていう人も結構いますんで、足首が動かなくなったとかそういうのがあるんだったらすぐ病院に行って診てもらった方がいいかなと思います。
膀胱直腸障害
最も深刻な症状の一つが、排尿や排便のコントロールが難しくなる膀胱直腸障害です。おしっこが出にくい、出した後も残っている感じがする、といった症状が現れた場合は、すぐに医療機関を受診してください。この症状は手術が必要な状況を示している可能性があります。
足首が上がらない、排尿・排便障害がある場合は、神経が重度に圧迫されている可能性があります。これらの症状が現れたら、すぐに整形外科を受診してください。
急なヘルニア、まず何をすべき?応急処置とやってはいけないこと
椎間板ヘルニアの症状が急に現れた場合、適切な初期対応が重要です。まずは落ち着いて、以下の応急処置を行いましょう。
安静にする
最も重要なのは、安静を保つことです。無理に動くと症状を悪化させる可能性があります。特に痛みが強い場合は、硬めの平らな場所で横になり、膝の下に枕やクッションを置くと腰への負担が軽減されます。
冷やす・温める
発症から48時間以内は、氷嚢などで患部を冷やすことで炎症を抑えることができます。20分程度冷やしたら、20分休むというサイクルを繰り返しましょう。48時間経過後は、温めることで筋肉の緊張をほぐし、血行を促進することができます。
痛み止めの使用
市販の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を服用することで、痛みや炎症を一時的に抑えることができます。ただし、長期間の服用は胃腸障害などの副作用のリスクがあるため、医師の指示に従いましょう。
やってはいけないこと
- 無理に動く:痛みを我慢して活動を続けると、症状が悪化する可能性があります。
- 重いものを持つ:腰への負担が増え、ヘルニアが悪化する恐れがあります。
- 長時間同じ姿勢を続ける:座りっぱなしや立ちっぱなしは避けましょう。
- 自己判断で激しい運動やストレッチを行う:適切な指導なしに行うと、症状を悪化させることがあります。
ヘルニアと診断された場合、腰に負担をかけない適切なストレッチを行うことも重要です。
病院での検査と診断の流れ
応急処置をしても症状が改善しない場合や、神経症状(足のしびれや筋力低下など)がある場合は、できるだけ早く医療機関を受診しましょう。椎間板ヘルニアの診断は、以下のような流れで行われます。
問診と身体診察
まず医師は、症状や痛みの場所、日常生活での困りごとなどを詳しく聞きます。その後、実際に体を動かしたり、反射を確認したりする身体診察を行います。例えば、足を伸ばした状態で上げる検査(SLRテスト)などが行われることがあります。
画像検査
椎間板ヘルニアの確定診断には、画像検査が必要です。一般的に行われる検査には以下のようなものがあります。
検査名 | 特徴 | わかること |
---|---|---|
レントゲン検査 | 骨の状態を確認できる | 骨の変形や狭窄などの確認(椎間板自体は直接見えない) |
MRI検査 | 軟部組織を詳細に観察できる | 椎間板ヘルニアの位置や大きさ、神経圧迫の程度 |
CT検査 | 骨や軟部組織の断層画像が得られる | MRIを受けられない場合の代替検査として |
特にMRI検査は、椎間板ヘルニアの診断に最も有効な検査方法です。椎間板の状態や神経の圧迫の程度を詳細に確認することができます。
ヘルニアの治療法:あなたに合った選択肢とは?
椎間板ヘルニアの治療は、症状の程度や神経圧迫の状態によって異なります。基本的には保存療法から始め、効果がない場合や重度の神経症状がある場合に手術を検討します。
保存療法(非手術治療)
多くの椎間板ヘルニアは、保存療法で症状が改善する可能性があります。主な保存療法には以下のようなものがあります。
- 薬物療法:消炎鎮痛剤や筋弛緩剤などを用いて、痛みや炎症を抑えます。
- ブロック注射:炎症を抑える薬を神経の近くに注射することで、痛みを軽減します。
- 物理療法:温熱療法や電気療法などを用いて、痛みの緩和や筋肉の弛緩を促します。
- コルセット:腰椎を固定することで、負担を軽減します。ただし、長期間の使用は腰の筋肉を弱める可能性があるため注意が必要です。
- 運動療法・リハビリテーション:専門家の指導のもと、腰を支える筋肉を強化する運動を行います。
腰の周りには骨というのは何もないんですよね。筋肉で支えないといけないです。腰を支える筋肉、特に腹直筋、腸腰筋、そして腹横筋といった筋肉が腰をしっかり支えることで、椎間板ヘルニアの症状を改善し再発を防ぐことができます。
手術療法
保存療法で効果が見られない場合や、重度の神経症状(足の筋力低下や膀胱直腸障害など)がある場合は、手術を検討することがあります。主な手術方法は以下の通りです。
- 内視鏡下椎間板切除術:内視鏡を用いて、最小限の切開で飛び出した椎間板組織を取り除きます。傷口が小さく、回復も比較的早いのが特徴です。
- 顕微鏡下椎間板切除術:顕微鏡を用いて、飛び出した椎間板組織を取り除きます。
- 椎弓切除術:神経の通り道を広げることで、神経への圧迫を軽減します。
手術後のリハビリについては、専門的なリハビリテーションプログラムに従うことで回復を早めることができます。
椎間板ヘルニアの治療は、まず保存療法から始めるのが一般的です。しかし、足の筋力低下や膀胱直腸障害などの重度の神経症状がある場合は、早急に医療機関を受診してください。
再発させない!日常生活での注意点と予防策
椎間板ヘルニアは、適切な予防策を講じることで再発リスクを減らすことができます。以下のポイントに注意して日常生活を送りましょう。
正しい姿勢を保つ
長時間のデスクワークや立ち仕事の場合は、定期的に姿勢を変えたり、軽いストレッチを行ったりすることが重要です。また、椅子に座る際は、背中がしっかりと支えられる椅子を選び、足がしっかりと床につく高さに調整しましょう。
適切な重量物の持ち方
重いものを持ち上げる際は、膝を曲げてしゃがみ、腰ではなく脚の力を使って持ち上げるようにしましょう。また、体から離れた位置で重いものを持つと腰に大きな負担がかかるため、なるべく体に近い位置で持つようにしましょう。
腰を支える筋肉の強化
腹筋や背筋、臀部の筋肉を鍛えることで、腰への負担を軽減できます。ただし、急に強い運動を始めると逆効果になる場合があるため、専門家の指導のもとで少しずつ行うことが大切です。
体重管理と健康的な生活習慣
過度の体重増加は腰への負担を増やします。適切な食事と定期的な運動を行い、健康的な体重を維持しましょう。また、喫煙は椎間板の栄養供給を悪化させるため、禁煙も重要な予防策の一つです。
十分な休息とストレス管理
疲労やストレスは筋肉の緊張を高め、腰への負担を増やす可能性があります。適度な休息を取り、ストレスを溜めすぎないよう心がけましょう。
日常生活でのヘルニア予防については、正しい姿勢と生活習慣が重要です。
椎間板ヘルニアに関するよくある質問
Q. 椎間板ヘルニアは完全に治りますか?
A. 椎間板ヘルニアは多くの場合、適切な治療と時間の経過で症状が改善する可能性があります。実際、ヘルニアの組織自体が体に吸収されて小さくなるケースも少なくありません。しかし、一度ヘルニアになった部分は弱くなっているため、適切な予防策を講じないと再発するリスクがあります。正しい姿勢や腰を支える筋肉の強化など、日常生活での注意が大切です。
Q. 急に足が動かなくなったらどうすればいいですか?
A. 急に足の力が入らなくなったり、足首が上がらなくなったりした場合は、神経が強く圧迫されている可能性があり、緊急性が高い状態です。すぐに整形外科や脊椎専門の医療機関を受診してください。特に、排尿や排便のコントロールも難しくなった場合は、馬尾症候群という緊急手術が必要な状態かもしれません。症状を我慢せず、早急に専門医の診察を受けることが重要です。
Q. ヘルニアになりやすい人の特徴はありますか?
A. 椎間板ヘルニアになりやすい人には、いくつかの共通した特徴があります。重い物を日常的に持ち上げる仕事をしている方、長時間同じ姿勢(特に前かがみの姿勢)を続ける方、運動不足や肥満の方、喫煙者などはリスクが高いとされています。また、家族にヘルニアの既往歴がある場合も、遺伝的要因により発症リスクが高まる可能性があります。年齢的には30〜50代の男性に多い傾向がありますが、若い世代でも発症することはあります。
Q. ヘルニアの手術後、どのくらいで日常生活に戻れますか?
A. 手術の種類や個人の回復力によって異なりますが、一般的に内視鏡手術などの低侵襲手術であれば、入院期間は1週間程度、日常生活への復帰は2〜4週間程度が目安とされています。ただし、重い物の持ち上げや激しいスポーツなどは、3〜6ヶ月程度控える必要がある場合もあります。また、手術後は医師の指導のもとでリハビリテーションを行うことが重要です。これにより、腰を支える筋肉を強化し、再発を防ぐことができます。回復期間は個人差が大きいため、具体的な復帰時期については担当医に相談しましょう。
Q. ヘルニアと診断されたら、どんな運動を避けるべきですか?
A. ヘルニアと診断された場合、腰に負担をかける運動は避けるべきです。特に、重量挙げ、腰を反る動きを含むヨガのポーズ、急激な回転運動、ジャンプを伴う高衝撃運動などは注意が必要です。また、急に体を反らせるゴルフのスイングも腰に大きな負担をかけます。一方で、適切な指導のもとでの水泳(特に背泳ぎを除く)、ウォーキング、腰を支える筋肉を強化する特定のエクササイズなどは、症状の改善に役立つ場合があります。運動を再開する際は、必ず医師や理学療法士に相談し、適切なアドバイスを受けることが重要です。
Q. 椎間板ヘルニアの痛みとぎっくり腰の痛みはどう違いますか?
A. 椎間板ヘルニアとぎっくり腰(急性腰痛症)は、どちらも突然の激しい腰痛を引き起こすことがありますが、いくつかの違いがあります。ぎっくり腰は主に腰の筋肉や靭帯の急性の損傷や炎症によるもので、腰痛が主症状となりますが、通常は数日から2週間程度で自然に改善していきます。一方、椎間板ヘルニアは、腰痛に加えて足へのしびれや痛みが広がることが多く、症状が長引くことがあります。また、椎間板ヘルニアでは特定の姿勢で痛みが強くなったり、咳やくしゃみで痛みが悪化したりすることがあります。正確な診断には医師の診察と画像検査が必要です。
Q. 子どもでも椎間板ヘルニアになることはありますか?
A. 子どもの椎間板ヘルニアは比較的稀ですが、存在します。特に成長期のスポーツ選手(特に腰に負担のかかるスポーツを行う選手)や、遺伝的要因を持つ子どもに見られることがあります。子どもの場合、症状は大人と似ていますが、原因や治療法が異なる場合があります。子どもが持続的な腰痛や下肢の痛み、しびれを訴える場合は、小児整形外科医の診察を受けることをお勧めします。子どもの椎間板はまだ成長段階にあり、大人よりも水分含有量が多く弾力性があるため、適切な治療と活動制限によって良好に回復することが多いです。