この記事は「日本身体運動科学研究所 代表理事・笹川 大瑛」の監修のもと作成されています。
椎間板ヘルニアに対する牽引療法は、一般的には推奨されていない治療法ですが、特定の条件下では症状改善が期待できる可能性があります。本記事では、椎間板ヘルニアの牽引療法について、その効果、方法、適応、注意点を専門家の知見を交えて詳しく解説します。牽引療法を検討されている方や、その効果に疑問をお持ちの方にとって参考になる情報をお届けします。
牽引で一時的に痛みがマシになったと思って、また強い負荷の運動を始めると、また痛くなったりすることがあります。その動きに耐える筋力や支える力をつけないと、またスポーツをしたら痛くなるということが起きますので、私がおすすめするのは筋力トレーニングです。
目次
椎間板ヘルニアにおける牽引療法とは?基本的な知識を解説
椎間板ヘルニアは、椎間板が破裂し神経を圧迫することで痛みやしびれを引き起こす病気です。牽引療法は、椎骨を引っ張ることで椎間板の圧力を軽減し、神経の圧迫を緩和する目的で行われる物理療法の一種です。
腰椎椎間板ヘルニアの場合は「腰椎牽引」、頚椎椎間板ヘルニアの場合は「頚椎牽引」が適用されます。牽引によって背骨を上下に引っ張ることで、狭くなっている骨の間隔を広げ、椎間孔の拡大や筋肉の緊張緩和を図ります。
当院では牽引療法をはじめ、理学療法、腰痛治療、椎間板ヘルニア手術などの包括的な治療を提供しており、患者様一人ひとりの症状に応じた最適な治療法を選択しています。
牽引療法の効果とメカニズムについて
牽引療法の効果には以下のようなものが期待される可能性があります。ただし、牽引療法が椎間板ヘルニアの完治につながるという科学的根拠は限定的であることが重要なポイントです。
効果の種類 | メカニズム | 期待される症状改善 |
---|---|---|
機械的効果 | 椎間孔の拡大・椎体間の離開 | 神経圧迫の軽減・痛みの緩和 |
生理学的効果 | 筋肉の緊張緩和・血行改善 | 筋肉のこわばり軽減 |
マッサージ効果 | 間欠的な牽引による刺激 | 血流促進・痛みの軽減 |
2019年に改訂された日本整形外科学会腰痛診療ガイドライン2019では、牽引療法は腰痛の治療として弱く推奨されています。これは、効果がわからないものの、条件を満たした上で行うことが推奨されているという意味です。
牽引療法の種類と具体的な方法
牽引療法には主に以下の種類があり、それぞれ適応となる疾患が異なります。
頚椎牽引の方法と適応疾患
適応疾患:変形性頚椎症、頚椎症性神経根症、頚椎椎間板ヘルニア、頚椎捻挫など
方法:顎を軽く引いた状態で、牽引力は体重の1/10~1/5を目安とし、通常は7kg程度で10分間行います。整形外科専門家による診察のもとで、患者の状態に応じて最適な牽引力を設定します。
腰椎牽引の方法と適応疾患
適応疾患:腰椎椎間板ヘルニア、腰椎症、脊柱管狭窄症など
方法:腰部を自動で間欠牽引(一定の時間、一定の力で数秒単位の牽引と休止を交互に行う)します。当院の整形外科では、患者の症状や状態に応じて最適な治療計画を立案し、安全で効果的な牽引療法を提供しています。
牽引療法のメリットとデメリット
期待できるメリット
牽引療法には以下のような利点が期待できる可能性があります:
- 一時的な痛みの緩和効果
- 筋肉の緊張をほぐす効果
- 血行改善によるマッサージ効果
- 非侵襲的な治療法であること
- 薬物療法と併用しやすいこと
注意すべきデメリットとリスク
牽引療法には以下のようなリスクも存在する可能性があります:
- 椎間板をさらに圧迫する可能性
- ヘルニアが悪化するリスク
- 神経を刺激して痛みが増強する可能性
- 効果が一時的である場合が多い傾向
- 適応を誤ると症状が悪化する危険性
専門家による牽引療法の見解と限界について
理学療法士の専門家によると、牽引療法は確かに一定の効果が期待できる治療法ですが、その効果には限界があるとされています。特に活動的な生活やスポーツを行う方の場合、牽引だけでは根本的な改善に至らない可能性が高いことが指摘されています。
専門家は「長時間のランニングや前傾姿勢をキープするような負荷に耐えうる体になる必要がある」と指摘しており、牽引療法と並行して筋力トレーニングや運動療法を行うことの重要性を強調しています。また、リハビリテーションを含む包括的なアプローチが推奨されます。
牽引療法が適応となるケースと注意事項
適応となるケース
牽引療法が適応となる場合は以下のような条件があります:
- 症状が比較的軽度である場合
- 手術適応ではない椎間板ヘルニア
- 筋肉の緊張が強い症状
- 保存的治療の一環として検討される場合
- 整形外科での診療において医師が総合的に判断して適切と考える場合
注意が必要なケースと禁忌
以下のような場合には牽引療法は慎重に検討される必要があります:
- 重度の椎間板ヘルニア
- 神経症状が強い場合
- 脊椎の不安定性がある場合
- 急性期の強い炎症がある場合
- 患者の全身状態が不良な場合
牽引療法の治療の流れと期間について
一般的な牽引療法の流れは以下の通りです。治療期間や方法は患者の状態により個別に調整されます。
段階 | 内容 | 期間の目安 | 実施頻度 |
---|---|---|---|
診察・評価 | 症状の確認、画像診断、適応の判断 | 初回診療時 | 1回 |
試行期間 | 少ない負荷での牽引、効果の確認 | 1-2週間 | 週2-3回 |
治療期間 | 定期的な牽引療法の実施 | 4-8週間 | 週2-3回 |
評価・継続判断 | 効果の評価、治療方針の見直し | 治療開始から2ヶ月後 | 1回 |
牽引療法以外の治療選択肢について
椎間板ヘルニアの治療には、牽引療法以外にも以下のような選択肢があります。患者の症状や病態に応じて、最適な治療法を組み合わせることが重要です。
保存療法の種類
- 薬物療法(消炎鎮痛剤、筋弛緩剤、神経障害性疼痛治療薬など)
- 理学療法・運動療法(ストレッチ、筋力強化、姿勢改善など)
- 注射療法(硬膜外ブロック、神経根ブロック、トリガーポイント注射など)
- 装具療法(コルセット、頚椎カラーなど)
- 物理療法(温熱療法、電気治療、超音波治療など)
手術療法について
保存療法で症状が改善しない場合や、重篤な神経症状がある場合には手術が検討される可能性があります。手術適応は慎重に判断され、患者と十分な相談の上で決定されます。詳しくは日本整形外科学会ガイドラインや厚生労働省腰痛対策をご参照ください。
牽引療法を受ける前に知っておくべき重要なポイント
牽引療法を検討する際には、必ず整形外科専門家の診断と指導を受けることが重要です。自己判断での牽引は危険であり、症状悪化のリスクがある可能性があります。
また、治療効果を高めるためには、牽引療法と並行して以下の点にも注意が必要です:
- 日常生活での姿勢の改善と意識
- 適度な運動と筋力トレーニングの継続
- 体重管理と生活習慣の見直し
- ストレス管理と十分な休息
- 定期的な経過観察と評価
当院では、椎間板ヘルニア症状の詳細な評価から椎間板ヘルニア治療まで、包括的なアプローチで患者様をサポートしています。
椎間板ヘルニア牽引療法に関するよくある質問
Q. 椎間板ヘルニアに牽引療法は効果がありますか?
A. 牽引療法は一時的な痛みの緩和や筋肉の緊張をほぐす効果が期待できる可能性がありますが、椎間板ヘルニアの完治につながる科学的根拠は限定的です。専門家の判断のもとで検討される治療選択肢の一つです。
Q. 牽引療法にはどのようなリスクがありますか?
A. 椎間板をさらに圧迫する可能性があり、ヘルニアが悪化するリスクがあります。また、神経を刺激して痛みが増強する場合もあるため、専門家の指導なしに行うのは危険です。
Q. 牽引療法はどのような場合に行われますか?
A. 専門家が症状や状態を総合的に判断し、患者に適していると考えられる場合に検討されます。自己判断ではなく、必ず医療専門家の指導の下で行う必要があります。
Q. 牽引療法の治療期間はどのくらいですか?
A. 一般的には4-8週間程度の治療期間が設定されることが多いです。効果の判定は治療開始から2ヶ月後に行われ、継続の必要性が検討されます。
Q. 牽引療法中に注意すべき症状はありますか?
A. 牽引後に痛みやしびれが増強する場合は、すぐに専門家に相談する必要があります。また、足の感覚異常や筋力低下などの神経症状が出現した場合も即座に医療機関を受診してください。
Q. 牽引療法以外にはどのような治療法がありますか?
A. 薬物療法、理学療法、注射療法などの保存療法や、重症例では手術療法があります。患者の症状や状態に応じて最適な治療法が選択される傾向があります。
Q. 牽引療法と運動療法は併用できますか?
A. はい、むしろ牽引療法だけでなく、適切な運動療法や筋力トレーニングを併用することで、より効果的な治療が期待できる可能性があります。専門家の指導のもとで実施することが重要です。
椎間板ヘルニアの牽引療法について詳しく解説しました。この治療法は限定的な効果しか期待できない場合もありますが、適切な条件下では症状改善に寄与する可能性があります。したがって、専門家との十分な相談のもとで治療方針を決定し、牽引療法だけに頼るのではなく、包括的なアプローチで症状改善を目指すことが重要です。
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