この記事は「日本身体運動科学研究所 代表理事・笹川 大瑛」の監修のもと作成されています。
脊柱管狭窄症の痛みの特徴は、立ったり歩いたりするとお尻から足にかけての痛みやしびれ、間欠跛行(かんけつはこう)などが挙げられます。この症状は歩行時に現れ、しばらく休むと楽になるという特徴があります。多くの場合、前かがみになったり座ったりすると症状が改善します。
痛みの原因は、脊柱管が加齢や疾患により狭くなることで神経が圧迫され、血流が悪くなることによって生じます。特に腰部脊柱管狭窄症は中高年に多く見られる腰痛の原因として注目されています。60歳以上の約30%が脊柱管狭窄症の画像所見を持つとされています。症状が進行すると歩ける距離が短くなり、日常生活に支障をきたす可能性があります。
この記事では、理学療法士が解説する脊柱管狭窄症の痛みの原因と特徴、効果的なセルフケア方法をご紹介します。腰のつらさを改善するために必要な筋肉の働かせ方と、専門医による診断・治療法についても詳しく解説していきます。
腰のつらさを解消するためにも、ストレッチのほかに筋肉を働かせるということを頭に入れてやっていただければなと思います
目次
脊柱管狭窄症とは?痛みの原因とメカニズム
脊柱管狭窄症は、背骨の中を通る脊柱管(せきちゅうかん)が狭くなることによって、中を通る神経(脊髄や神経根)が圧迫される疾患です。特に腰椎部分で起こるものを腰部脊柱管狭窄症と呼びます。
脊柱管狭窄症が起こる主な原因
脊柱管狭窄症の原因として、以下のようなものが挙げられます:
- 加齢による変性:背骨や椎間板、靭帯の変性・肥厚
- 変形性脊椎症:骨の変形や骨棘(こつきょく)の形成
- 椎間板ヘルニア:椎間板の突出
- すべり症:椎骨のずれ
- 先天性の狭窄:生まれつきの脊柱管の狭さ
特に多いのは加齢に伴う変性によるものです。年齢とともに背骨を構成する椎骨間の椎間板がすり減り、黄色靭帯が肥厚することで脊柱管が狭くなります。その結果、神経が圧迫され、痛みやしびれなどの症状が現れます。
神経の圧迫と症状の関係
脊柱管の中には脊髄神経や馬尾神経(ばびょうしんけい)が通っています。これらの神経が圧迫されると、以下のようなメカニズムで症状が発生します:
- 神経の直接的な圧迫による刺激
- 神経周囲の血流障害
- 神経の炎症反応
特に歩行時には腰椎が後弯(こうわん)位になり、脊柱管がさらに狭くなるため症状が悪化します。逆に前かがみの姿勢では脊柱管が広がるため、症状が軽減する傾向があります。これが自転車に乗ると比較的症状が出にくい理由でもあります。
圧迫部位 | 主な症状 | 特徴 |
---|---|---|
馬尾神経 | 両側の下肢のしびれや痛み、排尿・排便障害 | 症状が左右対称に現れることが多い |
神経根 | 片側の下肢の痛みやしびれ(坐骨神経痛) | 特定の動作で悪化することが多い |
脊髄神経 | 歩行障害、筋力低下、感覚障害 | 進行すると麻痺症状を伴うことがある |
脊柱管狭窄症の代表的な症状:こんな痛みやしびれに注意
脊柱管狭窄症では、様々な症状が現れますが、特に注意すべき代表的な症状があります。多くの患者さんが経験する症状を理解することで、早期発見・早期治療につながります。
間欠跛行(かんけつはこう)- 脊柱管狭窄症の特徴的な症状
間欠跛行とは、ある程度歩くと足に痛みやしびれが生じて歩けなくなり、休むと回復するという症状です。これは脊柱管狭窄症の最も特徴的な症状と言えます。
特に典型的なのは間欠跛行。しばらく歩いていると、脊椎に負荷がかかり、神経が圧迫され、足腰に痛みやしびれを感じて歩きにくくなります
間欠跛行の特徴:
- 歩き始めは問題ないが、続けると次第に症状が出現
- 休息すると症状が改善し、再び歩けるようになる
- 症状が進行すると、歩ける距離が徐々に短くなる
- 前かがみになると症状が軽減される傾向がある
下肢の痛みやしびれ
脊柱管狭窄症では、腰痛よりも下肢の症状が顕著であることが多いです。主に以下のような症状が現れます:
- お尻から太ももの裏側、ふくらはぎにかけての痛み
- 足のしびれや感覚異常
- 足の重だるさ
- 「ピリピリ」「ビリビリ」といった電気が走るような痛み
これらの症状は神経根の圧迫による坐骨神経痛として現れることが多く、片側だけに症状が出ることもあれば、両側に出ることもあります。脊柱管狭窄症患者の約65%が両側性の症状を示すと報告されています。
腰痛
実は、脊柱管狭窄症では腰痛は比較的軽度であることが多いのが特徴です。しかし、症状の進行や状態によっては強い腰痛を伴うこともあります。
腰痛の特徴:
- 起き抜けや長時間同じ姿勢でいた後に痛みを感じる
- 動き始めに痛みがあり、動いているうちに和らぐことも
- 下肢の症状に比べると軽度であることが多い
その他の症状
症状が進行すると、以下のような症状も現れることがあります:
- 排尿・排便障害:膀胱直腸障害として進行すると出現
- 筋力低下:特に足首やつま先の力が入りにくくなる
- 足の麻痺感:足がうまく動かせないといった感覚
- 坐骨神経痛:お尻から足にかけての放散痛
これらの症状が顕著に現れる場合は、症状が進行している可能性があるため、専門医への受診をお勧めします。特に排尿・排便障害は馬尾症候群の可能性があり、早急な対応が望ましいでしょう。
自分でできる?脊柱管狭窄症の痛みを和らげるセルフケアと予防法
脊柱管狭窄症の痛みは、適切なセルフケアによって改善できる可能性があります。特に腰や腰周りの筋肉を働かせることが重要です。
正しい筋肉の働かせ方 – 専門家推奨のエクササイズ
理学療法士の笹川先生によると、脊柱管狭窄症の腰の痛みを改善するためには、ストレッチだけでなく筋肉を働かせることが重要だと指摘しています。
基本的には筋肉がなぜ硬くなるかというと、働いていない筋肉があるためです。そのために働いていない筋肉を補おうとするために硬くなり筋肉というのが出てきます。ですのでストレッチだけやるというのは僕はあまりおすすめしないです
以下に、笹川先生が推奨するセルフケアエクササイズをご紹介します:
1. 股関節インナーマッスルのトレーニング
- 仰向けになり、股関節を開く
- 足の裏を横に向け、つま先を天井に向ける
- その状態で膝の曲げ伸ばしを10〜20回行う
- 反対側も同様に行う
このエクササイズは股関節のインナーマッスルである腸腰筋を働かせるのに効果的です。腸腰筋は脊柱の安定性を保つ重要な役割を担っています。
2. 腰周りの筋肉のストレッチと強化
- 片方の手を頭の上に、反対の手は外側に向ける
- 頭の上に手を置いた側の脇を伸ばし、反対側の肩を下げる
- 10回程度繰り返し、両側行う
このエクササイズは腰の横の筋肉を働かせ、ストレッチする効果があります。特に腰方形筋や腹斜筋群の柔軟性と筋力向上に役立ちます。
3. 股関節のストレッチ
- 横向きに寝て、股関節を軽く曲げる
- 膝を曲げたまま体を倒し、股関節を内側にねじる・開く動作を繰り返す
このストレッチは股関節の可動域を改善し、腰への負担を減らします。特に梨状筋という深層筋のストレッチにも効果的です。
4. お尻のストレッチ
- 足を組んで座り、前に体を倒す
- お尻が伸びているのを感じるくらいまでストレッチする
- 20秒キープし、反対側も同様に行う
このストレッチは大殿筋や梨状筋をストレッチし、坐骨神経への圧迫を軽減する効果が期待できます。
日常生活での注意点と予防法
脊柱管狭窄症の症状を和らげるためには、日常生活での姿勢や動作にも注意が必要です:
- 姿勢の変化を意識する:前かがみになる、座る、自転車に乗るなど、姿勢を変えると症状が改善することがあります
- 適度な休息:長時間の立ち仕事や歩行を避け、こまめに休憩を取る
- 腰への負担を減らす:重いものを持つときは膝を曲げて腰を守る姿勢を心がける
- 肥満を避ける:体重管理で腰への負担を減らす
- 定期的な運動:水中ウォーキングや自転車など腰に負担の少ない運動を行う
実際のセルフケア体験者の声
60歳の藤井さんは、脊柱管狭窄症による腰痛で悩んでいましたが、セルフケアを続けることで症状が改善したと報告しています:
上半身のセルフケアから始めてたので前半は腰の部分が改善しないということだったので、最近お伝えしていってた下半身の方で結構良くなっていった感じですね
藤井さんは、朝の空いた時間や夜寝る前など、生活の中で無理なくセルフケアを取り入れています。上半身と下半身のエクササイズを分けて行うなど、自分のペースで継続することが改善につながったようです。
専門家による診断と治療法:病院ではどんな検査や治療を行うのか
自己判断だけで対処するのではなく、症状が気になる場合は専門医を受診することが重要です。適切な診断を受けることで、より効果的な治療が可能になります。
診断方法
脊柱管狭窄症の診断は、以下のような流れで行われます:
- 問診:症状の経過、痛みの場所、日常生活での状況などを確認
- 触診:関節や筋肉の状態を確認
- 画像検査:MRI、CT、レントゲンなどの検査を行い、脊柱管の狭窄状態を確認
特にMRI検査は神経の圧迫状態を詳細に確認できるため、重要な検査となります。しかし、画像検査で脊柱管狭窄が確認されても、それが痛みやしびれに結びつくとは限らないため、症状との総合的な判断が必要です。
保存的治療
初期段階では、主に以下のような保存的治療が行われます:
- 薬物療法:消炎鎮痛剤、筋弛緩剤などの薬を処方
- リハビリテーション:理学療法士による専門的なリハビリプログラム
- 神経ブロック注射:痛みを起こしている神経の周りに薬を直接注入する治療
- 日常生活指導:腰に負担をかけない生活習慣の指導
藤井さんも病院での治療について言及しています:
リハビリ2ヶ月ぐらい通ってました。温めとあと電気とか、自転車漕いだりとか。なんか円盤みたいな椅子に座って腰を動かしたりとか、ボール挟んで内転筋鍛えるとか
手術療法
保存的治療で改善が見られない場合や、症状が重い場合には手術が検討されることがあります:
- 椎弓切除術:神経を圧迫している椎弓の一部を取り除く手術
- 低侵襲手術:小さな切開で行う手術(内視鏡手術など)
- 固定術:不安定になった椎骨を固定する手術
手術が必要かどうかは、症状の程度や日常生活への影響、画像検査の結果などを総合的に判断して決定されます。米国脊椎外科学会のガイドラインによれば、保存的治療を6ヶ月以上継続しても症状の改善が乏しい場合に手術が考慮されることが多いようです。
脊柱管狭窄症と間違えやすい他の疾患
脊柱管狭窄症と似た症状を示す疾患がいくつかあります。正確な診断と適切な治療のためには、これらの違いを理解することが重要です。
疾患名 | 主な特徴 | 脊柱管狭窄症との違い |
---|---|---|
椎間板ヘルニア | 突出した椎間板が神経を圧迫する疾患。若年層に多い | 安静時にも痛みが続くことが多く、特定の姿勢で悪化する |
変形性腰椎症 | 腰椎の変形による疾患。動作時の痛みが特徴 | 間欠跛行は少なく、腰痛が主症状となることが多い |
末梢動脈疾患 | 下肢の動脈が狭くなり血流が悪くなる病気 | 間欠跛行の症状が似ているが、前かがみで改善しない |
似た症状でも原因が異なれば治療法も変わってきます。自己判断せず、適切な診断を受けることが重要です。
まとめ:脊柱管狭窄症の痛みと上手に付き合うために
脊柱管狭窄症の痛みは、正しい知識と適切なケアによって改善できる可能性があります。この記事で紹介したポイントをまとめます:
- 脊柱管狭窄症の主な症状は、歩行時のお尻から足にかけての痛みやしびれ、間欠跛行
- 原因は加齢などによる脊柱管の狭窄と神経の圧迫
- ストレッチだけでなく、適切な筋肉トレーニングが重要
- 股関節インナーマッスルや腰周りの筋肉を働かせることで症状改善が期待できる
- 姿勢を変える、こまめに休息を取るなどの日常生活の工夫も有効
- 症状が気になる場合は早めに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが大切
脊柱管狭窄症の痛みは、症状の程度や進行状況によって異なります。放置すると、症状が悪化したり、日常生活に支障が出たりする可能性があります。気になる症状がある場合は、早めに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることをお勧めします。
また、本記事で紹介したセルフケアを日常生活に取り入れることで、症状の改善や予防に役立てることができます。無理せず自分のペースで継続することが改善への鍵となります。今すぐ取り入れられる簡単なエクササイズから始めてみましょう。
脊柱管狭窄症の痛みに関するよくある質問
Q. 脊柱管狭窄症の痛みはどのような特徴がありますか?
A. 脊柱管狭窄症の痛みは、立ったり歩いたりするとお尻から足にかけての痛みやしびれが特徴です。しばらく歩くと症状が悪化し、休むと楽になる「間欠跛行」が典型的な症状です。前かがみになると症状が軽減することも特徴的です。腰痛は比較的軽度であることが多く、下肢の症状が中心となります。
Q. 脊柱管狭窄症の痛みを自分で和らげる方法はありますか?
A. 自分でできる対処法としては、股関節インナーマッスルのトレーニングや腰周りの筋肉を働かせるエクササイズが効果的です。ストレッチだけでなく筋肉を適切に働かせることが重要です。また、姿勢を変える(前かがみになる、座るなど)ことで症状が軽減することもあります。日常生活では重いものを持たない、こまめに休息を取るなどの工夫も有効です。
Q. 脊柱管狭窄症の症状が現れたらすぐに病院に行くべきですか?
A. 脊柱管狭窄症の症状(歩行時の下肢のしびれや痛み、間欠跛行など)が気になる場合は、整形外科やペインクリニックなどの専門医を受診することをお勧めします。特に、症状が徐々に悪化している場合や、排尿・排便障害がある場合は早急に受診が必要です。適切な診断を受けることで、症状に合った治療法を選択できます。
Q. 脊柱管狭窄症は手術しか治療法がないのですか?
A. 脊柱管狭窄症の治療は、まず保存的治療(薬物療法、リハビリテーション、神経ブロック注射など)から始まることが一般的です。多くの場合、これらの治療で症状が改善します。保存的治療で改善が見られない場合や、症状が重い場合に手術療法が検討されます。手術が必要かどうかは、症状の程度や日常生活への影響を総合的に判断して決定されます。
Q. 脊柱管狭窄症を予防することはできますか?
A. 脊柱管狭窄症は加齢に伴う変性が主な原因のため、完全に予防することは難しいですが、リスクを減らすことは可能です。正しい姿勢の維持、適度な運動による体幹筋のバランス良い強化、適正体重の維持、喫煙の回避などが予防に役立ちます。特に腰周りの筋肉を強化し、背骨への負担を減らすことが重要です。定期的なセルフケアエクササイズを続けることで、症状の発症リスクや進行を抑えることができます。
Q. 脊柱管狭窄症の人でも続けられる運動はありますか?
A. 脊柱管狭窄症の人に適した運動としては、水中ウォーキング、自転車(前傾姿勢で脊柱管が広がる)、軽いヨガやピラティス(無理のない範囲で)などがあります。激しいジョギングや重量挙げなど腰に強い負担がかかる運動は避けるべきです。また、本記事で紹介した股関節インナーマッスルのトレーニングや腰周りの筋肉を働かせるエクササイズも日常的に行うことをお勧めします。いずれの運動も痛みが強くなる場合は中止し、専門医に相談してください。
Q. 脊柱管狭窄症に影響する生活習慣はありますか?
A. 脊柱管狭窄症の症状に影響する生活習慣として、長時間の立ち仕事や歩行、不適切な姿勢での作業、過度の肥満、喫煙などが挙げられます。これらは脊柱への負担を増加させ、症状を悪化させる可能性があります。反対に、適度な運動、適正体重の維持、良い姿勢の保持、腰部サポーターの使用などは症状の軽減に役立つことがあります。日常生活では、重いものを持つ際に膝を曲げる、床から物を拾う際に腰を曲げずにしゃがむなどの工夫も大切です。