現代社会におけるストレスは避けられない要素の一つであり、その影響は身体に様々な形であらわれます。中でも、慢性的な腰痛はストレスが大きな原因となっていることが、科学的研究によって明らかにされています。不明瞭な腰痛を抱える人々にとって、その背後にあるストレスを理解し、適切に対処しチェックすることは健康促進のために非常に重要です。
・腰の痛みがストレス性の腰痛が原因なのか悩んでいる
・原因が分からない腰痛があり、とりあえず薬を飲んで痛みを誤魔化している
・心因性腰痛の改善のポイントが知りたい
上記のような悩みがある方が多くいるようです。
この記事では、ストレス由来の慢性的な腰痛(心因性腰痛)の識別方法、その原因、その生理学的メカニズム、そして有効な対処法について、読者が自身の症状に対して賢明なアプローチを取れるよう解説していきます。ぜひ最後までご覧ください。
ストレスと腰痛の関係性とは?
ストレスと腰痛の間には相関関係があることが研究によって明らかにされています。この研究は、国民生活基礎調査のデータを用いて行われ、特に1995年のデータからはストレスと腰痛の間に明確な相関があることが示されました。一方で、2001年のデータではその相関は見られませんでした。
しかし、両年のデータを用いた詳細な解析では、ストレスと腰痛の間にはやはり関係があると結論づけられています。これらの結果は、ストレスが慢性的な腰痛の原因の一つである可能性を示唆しており、この記事ではそのメカニズムについてさらに掘り下げていきます。
【参考】ストレス自覚度ならびに社会生活指標が腰痛・関節痛,肩こりに及ぼす影響 : 都道府県別データの解析
3か月以上長引く慢性腰痛もストレスが関係している?
慢性腰痛は、3か月以上続く腰の痛みを指し、原因が明確でないケースや治癒後も痛みが続くケースがあります。この痛みは時に激しくなることもあり、年代を問わず発症しますが、特に30〜50歳代の働き盛りの事務職を仕事にしている方に多いことが指摘されています。痛みの発生と持続には、私生活の姿勢や運動不足ももちろん含まれますが、ストレスが深く関係していると考えられており、生活や職場のストレスが慢性腰痛のリスクを高めている可能性があります。このような背景から、慢性腰痛や椎間板ヘルニアとストレスの関連性を掘り下げ、その対処法を探ることが重要です。
ストレスが原因で発生する心因性腰痛の特徴
心因性腰痛は、ストレスが大きな原因となって発生します。この腰痛は、通常の医療検査では明確な原因が見つからず、症状の一貫性が欠けることが特徴です。ストレスによる心理的な影響が身体に表れ、腰痛としてあらわれるのですが、その症状は人によって大きく異なり、時には医学的な検査では説明がつかないほどです。このように、心因性腰痛は身体的な原因ではなく、精神的なストレスが深く関与しているとされています。
本章では以下の心因性腰痛の2つの特徴を解説します。
・腰痛の症状がバラバラで一定ではない
・病院に行っても原因が分からない・異常が見つからない
少しでも腰の痛みに悩んでいる方は確認してください。
腰痛の症状がバラバラで一定ではない
心因性腰痛は、症状の一貫性がなく、同じ動作でも痛みがあらわれたり、あらわれなかったりします。これは、心因性腰痛が心理的なストレスによって引き起こされるため、物理的な原因に基づく腰痛とは異なるあらわれ方をするためです。
病気を疑う方もいらっしゃいますが、ストレスが原因であることも非常に多いので、もし今抱えている腰痛の症状に一貫性がない場合は心因性の腰痛を疑ってもよいでしょう。
病院に行っても原因が分からない・異常が見つからない
ストレスに起因する心因性腰痛の場合、レントゲンやMRIなどの医療検査では特定の異常が見つかりません。病気を疑って検査をしてもよく分からないことが多いです。
腰椎の変形や骨折といった物理的な原因がないため、診断が難しく、治療のアプローチも異なります。
ストレスが原因で起こる心因性腰痛の5つのメカニズム
ストレスによる心因性腰痛には、特定のメカニズムが関係しています。
本章では以下の3つのメカニズムについて解説していきます。
1つでも気になる内容があれば部分的に確認しても良いでしょう。
・ストレスが影響して脳の機能に異常をきたす
・ストレスのせいで血行不良になり腰痛が起こる
・精神的な影響で身体感覚が過敏になる
・ストレスによって筋肉の緊張が発生する
・情動調節の障害が痛みを感じやすくさせる
これらのメカニズムは、心理的ストレスが身体にどのように作用し、腰痛を引き起こすかを理解するのに役立ちます。痛みの軽減のためにぜひ確認してください。
ストレスが影響して脳の機能に異常をきたす
ストレスが脳に与える影響について、ストレスが痛みを感じる脳の機能に不具合を引き起こし、本来痛みを軽減すべきメカニズムの働きを損なうことが明らかにされています。健康な状態では、痛みの信号が脳に届くと、痛みを和らげるためのドーパミンやμオピオイドが放出されます。しかし、脳がストレスを感じていると、これらの物質の放出が妨げられ、結果として慢性的な腰痛を引き起こす原因となることがあります。この現象は、ストレスが身体的な痛みに直接影響を及ぼす一例として一定の証明がされています。腰痛が発生している箇所に物理的な原因があるというよりも脳の機能障害と考えるのが妥当です。
【引用】National Institute of Neurological Disorders and Stroke (NINDS), National Institutes of Health (NIH)
ストレスのせいで血行不良になり腰痛が起こる
ストレスが長期間続くと、身体化現象が起こり、特に腰の筋肉で血流不足を引き起こすことがあります。この血流不足は、酸素や栄養素の供給が不十分となり、結果として痛みを感じやすくなる物質が生成されます。このプロセスは、腰痛の一因となりえます。心理的ストレスが身体的な症状に変換されるこのメカニズムを知っておくことは、腰痛への理解と対策においてとても重要です。
精神的な影響で身体感覚が過敏になる
心因性腰痛のメカニズムの一つとして、ストレスが身体感覚を過敏にすることが挙げられます。日常的なストレスや精神的な負担が重なると、脳は痛みに対する感受性を高め、通常は軽微な刺激も強い痛みとして認識するようになります。この脳による身体の現象は、実際に受ける刺激に対して過剰反応することで、腰痛などの身体的な症状を引き起こしたり、既存の症状を悪化させたりする原因となります。
ストレスによって筋肉の緊張が発生する
ストレスが原因で、特に腰周りの筋肉に無意識の緊張が生じることがあり、これが心因性腰痛を引き起こす要因の一つとなります。日々の生活の中で経験する精神的ストレスは、身体に直接的な影響を与え、筋肉の過度な緊張を引き起こします。この筋肉の緊張は、血流の悪化や痛みの感受性の増加につながり、結果として慢性的な腰痛を引き起こすことに繋がります。
情動調節の障害が痛みを感じやすくさせる
心因性腰痛において、情動調節の障害は痛みを感じやすくする重要な要因です。ストレス、不安、抑うつなどの感情的な問題は、個人の痛みの閾値を下げ、通常は軽度の刺激をも強い痛みとして感じさせることがあります。これは、感情的な不調が痛みに対する感受性を高め、脳の痛み処理メカニズムに影響を与えるためです。また、不安や抑うつが痛みをさらに悪化させる悪循環を生み出すこともあります。
心因性腰痛のチェックリスト「BS-POP」
医療機関では、慢性腰痛に関連する精神的要因を評価するためにBS-POPのチェックリストという質問票が使用されることがあります。これは自己評価と医師による評価を組み合わせた方法で、患者自身の感じる心理的ストレスや気分の変動を具体的に把握します。医師からの質問内容には、気分の落ち込み、イライラ、睡眠の質、日常生活で感じる痛みや疲れなどが含まれ、得点によって患者の精神状態と腰痛の関連性を確認します。
質問事項 | 回答内容 | ||
1.痛みのとぎれることはない。 | 1.そんなことはない | 2.時々とぎれる | 3.ほとんどいつも痛む |
2.患部の示し方に特徴がある脱ぎ始めて患部を見せる | 1.そんなことはない | 2.患部をさする | 3.指示がないのに衣類を |
3.患肢全体が痛む(しびれる) | 1.そんなことはない | 2.ときどき | 3.ほとんどいつも |
4.検査や治療をすすめられたとき、不機嫌、易怒的、または理屈っぽくなる | 1.そんなことはない | 2.少し拒否的 | 3.おおいに拒否的 |
5.知覚検査で刺激すると過剰に反応する | 1.そんなことはない | 2.少し過剰 | 3.おおいに過剰 |
6.病状や手術について繰り返し質問する | 1.そんなことはない | 2.ときどき | 3.ほとんどいつも |
7.治療スタッフに対して、人を見て態度を変える | 1.そんなことはない | 2.少し | 3.著しい |
8.ちょっとした症状に、これさえなければとこだわる | 1.そんなことはない | 2.少しこだわる | 3.おおいにこだわる |
一般的には15点以上で何らかの精神的な問題が要因になっていると判断をすることができますが、実際に医師とセッションの中で導き出す方が安心です。
実際に感じる痛みや慢性的な腰痛の状態からじっくり相談しましょう。
ストレスが原因の心因性腰痛の対処法は?
ストレスが原因になって発生する心因性腰痛の対処法を確認していきましょう。
・整形外科での診察
・生活習慣の見直し
・認知行動療法
上記の対処を行うことで、正しく腰痛の改善に向かって行動することができます。
ついつい薬に頼ってしまう…という方もいますが、まずは本章の通りに確認していくことをおすすめします。
それぞれ解説します。
原因をはっきりさせるために整形外科を受診する
まずは腰痛の原因が本当にストレスが原因となって発生しているのか総合的に調べることが大切です。
心因性腰痛の診断には、まず整形外科での詳細な検査を通じて、腰痛が内臓疾患やその他の身体的条件によるものではないことを医師に確認します。様々な腰痛の可能性を精査し、身体的な原因が見つからない場合に心因性腰痛の可能性を考慮します。この受診というステップは、適切な治療方針を立てる上で不可欠です。
例えば腰椎椎間板ヘルニアや神経痛などのように原因が物理的にハッキリしている場合はそれ相応の対処ができます。慢性的な腰痛を判断する場合は、はじめの一歩として病院を受診するところから対処していきましょう。
生活習慣を見直す
精神的な問題が腰痛の原因になっていると診断された場合、まずは日常生活のバランスから見直しから始めましょう。悪い習慣はなるべく減らすべきです。食欲に任せてドカ食いなどを繰り返している場合は即座に対応を考えましょう。
日常生活におけるストレスの原因を特定し、ストレス軽減のための戦略を立てることが心因性腰痛の管理には効果的です。適度な運動、趣味やリラクゼーション技法の実践、健康的な食生活と栄養バランスの維持など、心身の健康を支える生活習慣の見直しが推奨されます。
心因性腰痛の場合は認知行動療法を行う場合も
認知行動療法(CBT)は、心因性腰痛を含む多くの疾患において有効な治療法です。この療法は、痛みに対する患者の考え方や反応のパターンを変えることを目的とします。認知行動療法を受けることで、痛みに対する対処方法を学び、痛みを悪化させる思考や行動を修正することが可能になります。結果として、腰痛の症状の軽減や日常生活の質の向上が期待できます。
まとめ
昨今の社会では、仕事や人間関係が原因で多くのストレスを抱える方が急増しています。
事務職をしていたり、姿勢不良だったり、運動不足だったり慢性的な腰痛の原因は多岐に渡りますが、ストレスが原因となる腰痛も疑う必要があります。
腰痛とストレスの関係性は、心因性腰痛という形で顕著に現れます。これは、慢性化した腰痛がストレスによって引き起こされることを示唆しており、症状は一定ではなく、標準的な医療検査では原因が特定できないことが特徴です。
ついついドラッグストアなどの薬で何とかしようとしがちですが、本記事の手順通りに確認、対応しましょう。
心因性腰痛を引き起こすメカニズムには、脳の機能障害、血行不良、痛みの閾値の低下などがあります。対処法としては、まず整形外科で身体的な原因を排除し、生活習慣の見直しや認知行動療法による心理的なアプローチがおすすめです。これらの方法を通じて、腰痛の症状や痛みの軽減と生活の質の向上を目指しましょう。