この記事は「日本身体運動科学研究所 代表理事・笹川 大瑛」の監修のもと作成されています。
ヘルニアがあると、腹筋運動(特に上体起こし)は避けるべきです。しかし、正しい方法で体幹を鍛えることは、ヘルニアの症状改善や再発予防に効果が期待できます。本記事では、整形外科医と理学療法士の見解に基づき、ヘルニアの種類や症状に合わせた安全な腹筋トレーニング法と、必ず避けるべき動きを詳しく解説します。ドローインやプランクなど、腰への負担が少ない体幹トレーニングを取り入れることで、ヘルニアと上手に付き合いながら筋力をつけていきましょう。
多くの腰痛は体の動かし方や癖、筋力の衰えにより骨盤周りの筋肉がアンバランスになることで引き起こされるのです。骨盤周辺の筋肉のトレーニングが体感のインナーマッスルを働かせてコルセットのように体を支えてくれるようになります。
目次
そもそもヘルニアとは?腹筋トレーニングに影響する種類と原因を解説
ヘルニアとは、体内の臓器や組織が本来あるべき場所から飛び出してしまう状態を指します。特に筋トレとの関連で問題になるのは「椎間板ヘルニア」と「鼠径ヘルニア」の2種類です。
椎間板ヘルニアの原因と症状
椎間板ヘルニアは、背骨と背骨の間にあるクッションの役割をする椎間板が圧力で変形し、中身が飛び出して神経を圧迫する状態です。主な原因は以下の通りです:
- 加齢による椎間板の変性
- 不良姿勢の継続
- 過度な負荷や不適切な動作
- 遺伝的要因
症状としては、腰痛だけでなく、足のしびれや痛み、麻痺感などが現れることがあります。特に腰を曲げる動作や長時間の座位で痛みが増すケースが多いため、腹筋運動との関連が問題視されます。
鼠径ヘルニアについて
鼠径ヘルニアは、腹部の筋膜が弱くなり、そこから腸が出てくる可能性がある状態です。原因としては:
- 腹圧の上昇(重いものを持ち上げる、咳、排便時のいきみなど)
- 加齢による筋膜の弱化
- 先天的な要因
症状は太ももの付け根や鼠径部の膨らみや違和感、痛みなどが特徴です。腹筋運動でも腹圧が上がるため、鼠径ヘルニアのリスク要因になり得ます。
ヘルニアの種類 | 主な症状 | 腹筋運動との関係 |
---|---|---|
椎間板ヘルニア | 腰痛、足のしびれ・痛み、麻痺感 | 上体起こしなどの動作で椎間板への圧力が増加し、症状悪化のリスクあり |
鼠径ヘルニア | 鼠径部の膨らみ、違和感、痛み | 腹筋運動で腹圧が上昇し、症状悪化や発症リスクが増加する可能性あり |
ヘルニアの時に腹筋運動はOK?NG?専門家の見解
ヘルニアがある場合、すべての腹筋運動が禁忌というわけではありません。しかし、専門家は以下のような見解を示しています。
避けるべき腹筋運動
上体起こし(クランチ、シットアップ)は特に注意が必要です。これらの運動は腰椎に強い圧力をかけ、椎間板への負担が大きくなります。特に椎間板ヘルニアの方は、症状悪化のリスクが高まるため避けるべきでしょう。
また、背中を丸める腹筋運動も避けるべきです。この動きは椎間板にかかる負担が大きくなるため、ヘルニアの症状を悪化させる可能性があります。
過度な腹圧を伴う運動も控えることが望ましいです。特に鼠径ヘルニアのある方は、腹圧上昇により症状悪化のリスクがあります。
足を伸ばすと腰が痛いとか、腰が丸くなっちゃってる人はもう足を伸ばすと腰に負担がかかるっていう方もいますので、スタートは両膝を立ててみてください。
安全に行える腹筋トレーニング
一方で、体幹の安定性を高めるトレーニングは、ヘルニアの症状改善や予防に効果的と考えられています。適切な方法で体幹の筋肉を強化することで、脊椎の安定性が向上し、ヘルニアによる痛みや不快感が軽減される可能性があります。
医師や理学療法士といった専門家の多くは、腰への負担が少ない体幹トレーニングを推奨しています。ただし、トレーニングの開始前には必ず医師に相談し、自分の状態に合ったメニューを選ぶことが重要です。
【専門家監修】ヘルニアを悪化させない腹筋トレーニングの5つの原則
ヘルニアがある方が安全に腹筋を鍛えるためには、以下の5つの原則を守ることが大切です。
1. 痛みが出たらすぐに中止する
「痛みを我慢して頑張る」という考え方は、ヘルニアには適していません。痛みや違和感を感じたら、すぐにトレーニングを中止し、必要に応じて医師に相談しましょう。これは最も重要な原則です。
2. 呼吸を止めない
力みながら息を止めると腹圧が上昇し、ヘルニアに悪影響を与える可能性があります。トレーニング中は自然な呼吸を心がけましょう。腹圧を上げすぎないよう、動作中はゆっくりと呼吸を続けることが重要です。
3. 段階的に負荷を上げる
いきなり高負荷のトレーニングを始めるのではなく、最も基本的な動きから始めて、徐々に強度を上げていくことが大切です。体の適応を見ながら、少しずつ回数や負荷を増やしていきましょう。
4. 正しいフォームを維持する
不適切なフォームでのトレーニングは、効果が低いだけでなく、ヘルニアの症状を悪化させるリスクもあります。特に腰の位置や骨盤の角度に注意しましょう。可能であれば、初めは鏡の前で行うか、専門家に指導してもらうことをおすすめします。
5. 専門家の指導を受ける
可能であれば、理学療法士や専門トレーナーの指導のもとでトレーニングを始めることをおすすめします。自分の状態に合った適切なメニューを組んでもらえます。定期的に状態を見直し、プログラムを調整することも大切です。
ヘルニアの種類別・症状別 おすすめ腹筋(体幹)トレーニングメニュー
ヘルニアの種類や症状によって、適切なトレーニングメニューは異なります。ここでは、安全に行える代表的なトレーニング5種をご紹介します。
椎間板ヘルニア向けおすすめトレーニング
1. ドローイン
ドローインは、腹筋の中でも特にインナーマッスルを意識して内側に引き締める運動です。腰椎への負担が少なく、体幹の安定性を高めるのに効果的です。
- 仰向けに寝て、膝を立てます
- 息を吐きながらお腹をへこませ、背中と床の間にすき間ができないように意識します
- その状態を10秒間キープし、ゆっくり元に戻します
- 10回を1セットとして、2〜3セット行います
2. シングルレッグレイズ
腰への負担を最小限に抑えながら、腹筋を効果的に鍛えられるエクササイズです。
- 仰向けに寝て、両膝を立てます
- 片方の膝を胸に向かって引き寄せ、もう片方の足をゆっくりと床と平行になるまで伸ばします
- 腰が反らないよう注意しながら、ゆっくりと元の姿勢に戻します
- 左右10回ずつを1セットとして、2〜3セット行います
3. ブリッジ
臀部や体幹の筋肉を効果的に鍛えられるエクササイズで、腰椎への負担が少ないのが特徴です。
- 仰向けに寝て、膝を立てます
- 息を吐きながら、臀部を持ち上げます
- 肩から膝までが一直線になるようにキープし、10秒間ホールドします
- ゆっくりと元の姿勢に戻し、10回繰り返します
鼠径ヘルニア向けおすすめトレーニング
鼠径ヘルニアの場合、腹圧を上げる運動は避け、特に鼠径部周辺の筋肉を徐々に強化していくアプローチが有効と考えられています。ただし、鼠径ヘルニアは手術以外に根本的な治療法はないため、必ず医師に相談した上でトレーニングを行いましょう。
4. 軽度のプランク
膝をついた状態で行う軽度のプランクは、腹圧を過度に上げずに体幹を鍛えられます。
- うつ伏せになり、肘と膝をついた状態にします
- 肘は肩の真下に置き、体を一直線にします
- その姿勢を10〜30秒間キープし、ゆっくり元に戻します
- 3〜5回繰り返します
5. 腿の内側の筋トレ
鼠径部周辺の筋肉を強化するのに効果的なエクササイズです。
- 仰向けに寝て、片方の膝を立てます
- 膝を立てた足のつま先を内側に向け、軽く片方のお尻を浮かせるようにします
- 腿の内側に力が入るのを感じながら、10秒間キープします
- 左右10回ずつ行います
腹筋トレーニングを行う上での重要注意点と3つのNG行動
ヘルニアのある方が腹筋トレーニングを行う際には、特に注意すべき点があります。ここでは、絶対に避けるべき3つのNG行動と、効果的なトレーニングのポイントを解説します。
絶対避けるべき3つのNG行動
以下の行動は、ヘルニアの症状を悪化させる可能性があるため、必ず避けましょう:
- 無理な回数や重量に挑戦する:「頑張れば効果が出る」という考えは危険です。特にヘルニアのある方は、無理をせず、自分のペースで行うことが重要です。
- 痛みを我慢してトレーニングを続ける:痛みは体からの警告信号です。痛みを感じたら、すぐにトレーニングを中止しましょう。
- 不適切なフォームでトレーニングを行う:正しいフォームを維持できないトレーニングは、効果が低いだけでなく、症状悪化のリスクもあります。
その他にも、腹圧を上げるような動き(重量挙げ、息を止めての腹筋など)や、医師の指示を無視して独自のトレーニングを行うことも避けるべきです。
トレーニング前後のケア
効果的なトレーニングとリカバリーのために、以下のポイントにも注意しましょう:
- トレーニング前のウォーミングアップを十分に行う
- トレーニング後のストレッチでクールダウンを行う
- 水分補給を適切に行う
- トレーニング後の過度な負荷を避ける(重いものを持つなど)
- 十分な休息と睡眠をとる
適切なトレーニング頻度と強度
ヘルニアがある場合は、過度なトレーニングが症状悪化につながることがあります。トレーニングの頻度や強度は慎重に設定しましょう。
- 初心者は週2回から始め、慣れてきたら最大週3回に
- 1回のセッションは10〜15分から始め、徐々に延長
- 各エクササイズは5〜10回程度の反復から開始
- 痛みがなく、体調が良い日だけトレーニングを実施
- トレーニング間に少なくとも24〜48時間の回復期間を設ける
体調や症状に合わせて、柔軟にプログラムを調整することも大切です。調子が良い日は少し負荷を上げ、調子が悪い日は軽めに行うなど、日々の体調に合わせた対応が重要です。
腹筋以外でヘルニア改善に役立つ運動・ストレッチ
ヘルニアの改善や予防には、腹筋トレーニング以外にも効果的な方法があります。総合的なアプローチで症状管理を行いましょう。
ストレッチ
柔軟性を高め、筋肉の緊張を和らげるためのストレッチは、ヘルニアの症状緩和に役立つ可能性があります。特に以下のストレッチがおすすめです:
- 膝抱えストレッチ:仰向けになり、両膝を胸に引き寄せる
- 骨盤回旋ストレッチ:仰向けになり、膝を立てた状態で左右に倒す
- 猫のポーズ:四つん這いになり、背中を丸める・反らすを交互に行う
- 腸腰筋ストレッチ:片膝を床につけ、もう片方の足を前に出して腰を伸ばす
姿勢の改善
正しい姿勢を維持することで、脊椎への負担を軽減できると考えられています。日常的に意識したい姿勢のポイントは以下の通りです:
- 座る時は背筋を伸ばし、骨盤を立てる
- 立つ時は膝を軽く曲げ、体重を両足に均等にかける
- 寝る時は横向きに寝て、膝の間に枕を挟む
- 長時間同じ姿勢を続けない(30分ごとに姿勢を変える)
- スマートフォンやパソコン使用時は、目線が下がりすぎないように注意
日常生活における工夫
日常生活での小さな工夫も、ヘルニアの症状管理に重要な役割を果たします:
- 重いものを持つ時は膝を曲げて持ち上げる(腰ではなく足の力を使う)
- 長時間同じ姿勢でいることを避ける(デスクワークの場合は定期的に立ち上がる)
- 適度な休息を取る(過労はヘルニア症状の悪化につながる可能性あり)
- 体重管理を行う(過体重は脊椎への負担増加につながる)
- 喫煙を避ける(血流が悪くなり、椎間板の栄養状態が悪化する可能性あり)
- 適切なマットレスとピローを選ぶ(睡眠中の姿勢をサポート)
改善方法 | 期待される効果 | 頻度の目安 |
---|---|---|
安全な体幹トレーニング | 脊椎の安定性向上、再発予防 | 週2〜3回 |
ストレッチ | 柔軟性向上、筋緊張緩和 | 毎日(軽度) |
姿勢改善 | 脊椎への負担軽減 | 常時意識 |
日常生活の工夫 | 症状悪化の予防 | 常時実践 |
低強度有酸素運動(ウォーキングなど) | 血流改善、体重管理 | 週3〜5回 |
ヘルニアと腹筋トレーニングに関するよくある質問
Q. ヘルニアがある場合、腹筋運動(特に上体起こし)は避けるべきですか?
A. はい、ヘルニアがある場合は、上体起こしやシットアップなどの腹筋運動は避けるべきです。これらの動きは腰椎に強い圧力をかけ、症状を悪化させる可能性があります。代わりに、ドローインやプランクなど、腰への負担が少ない体幹トレーニングを行うことをおすすめします。
Q. ヘルニアでも安全に行える腹筋トレーニングはありますか?
A. はい、ヘルニアでも安全に行えるトレーニングとして、ドローイン、軽度のプランク、ブリッジなどがあります。これらは腰椎への負担が少なく、体幹の安定性を高めるのに効果的です。ただし、トレーニングを始める前には必ず医師に相談し、自分の状態に合ったメニューを選ぶことが重要です。
Q. 腹筋を鍛えることでヘルニアは治りますか?
A. 腹筋を鍛えることでヘルニアが完全に治ることはありませんが、適切なトレーニングによって症状の軽減や再発予防に効果が期待できる可能性があります。特に体幹の筋肉を強化することで、脊椎の安定性が向上し、ヘルニアによる痛みや不快感が軽減される可能性があります。鼠径ヘルニアの場合は、手術による治療が基本となりますので、筋トレだけで治療することはできません。
Q. ヘルニアのリハビリにはどのような運動が効果的ですか?
A. ヘルニアのリハビリには、体幹の安定性を高めるトレーニング、ストレッチ、姿勢改善エクササイズなどが効果的です。具体的には、ドローイン、ブリッジ、軽度のプランク、骨盤回旋ストレッチなどが挙げられます。ただし、リハビリプログラムは個人の症状や状態によって異なるため、専門家(医師や理学療法士)と相談しながら進めることが重要です。
Q. 腹筋トレーニング中に痛みを感じたらどうすればいいですか?
A. トレーニング中に痛みや違和感を感じたら、すぐに動作を中止してください。「痛みを我慢して頑張る」という考え方は、ヘルニアには適していません。痛みが続く場合は医師に相談し、トレーニング方法や強度の見直しを行いましょう。安全に行えるトレーニングであっても、無理は禁物です。
Q. ヘルニアからの回復にはどのくらいの期間が必要ですか?
A. ヘルニアからの回復期間は、症状の重症度や個人差によって大きく異なります。軽度のヘルニアであれば、適切な治療やリハビリを行うことで数週間から数ヶ月で症状が改善することもあります。一方、重度のヘルニアや手術が必要な場合は、回復までにより長い時間がかかる可能性があります。回復過程で無理をせず、医師の指示に従って段階的にトレーニングを進めることが大切です。
Q. 腹筋運動以外でヘルニアに良い運動はありますか?
A. はい、ヘルニアの改善や予防には、ウォーキングや水泳などの低負荷の有酸素運動、ストレッチ、ヨガ(特定のポーズを避ける必要あり)などが効果的です。これらの運動は、血流を促進し、体の柔軟性を高め、全身の筋バランスを整えるのに役立ちます。また、日常生活での姿勢改善や動作の工夫も重要です。いずれの運動も、自分の症状や状態に合わせて無理のない範囲で行うことが大切です。
まとめ:ヘルニアと上手く付き合いながら腹筋を鍛えるために
ヘルニアがあっても、適切な方法で体幹を鍛えることは可能です。重要なのは、自分の症状や状態に合ったトレーニング方法を選び、無理をせず段階的に進めていくことです。
この記事でご紹介したポイントをまとめると:
- 上体起こしや背中を丸める腹筋運動は避け、腰への負担が少ない体幹トレーニングを選ぶ
- ドローイン、軽度のプランク、ブリッジなどの安全なトレーニングから始める
- 痛みが出たらすぐに中止し、必要に応じて医師に相談する
- 腹筋トレーニング以外にも、ストレッチ、姿勢改善、日常生活の工夫を取り入れる
- トレーニングを始める前には必ず医師に相談し、自分の状態に合ったプログラムを選ぶ
ヘルニアの症状は人によって異なります。焦らず、自分のペースで体幹の筋力を高めていくことで、ヘルニアとの上手な付き合い方を見つけていきましょう。
最後に、この記事の情報はあくまで一般的なガイドラインです。具体的なトレーニングプログラムや治療方針については、必ず医師や専門家に相談することをおすすめします。