この記事は「日本身体運動科学研究所 代表理事・笹川 大瑛」の監修のもと作成されています。
五十肩でお悩みの方にとって、「いつになったら治るのか」という疑問は切実なものです。結論から言うと、
五十肩の治療期間は個人差が大きく、数週間から数年まで様々です
。数週間で改善する場合もあれば、多くの場合、発症から1〜2年程度で自然に傾向がありますが、症状の程度や治療法によって期間は個人差があります。
本記事では、五十肩の回復過程や効果的な治療法、そして早期回復のためのポイントを解説します。五十肩はいつ治る か疑問の方は専門家のトレーニング方法もお伝えしていきます。
「五十肩は腕が上がらないという方よく聞きますが、ちょっとした動きでもすごく痛みが出たり、寝返りをすると痛みで起きてしまったり、お風呂で頭を洗うのも辛いというのもよく聞きます」
目次
五十肩(肩関節周囲炎)はいつ治る?症状と特徴
五十肩とは、正式には「肩関節周囲炎」と呼ばれる、主に40〜60代の方に多く見られる肩の疾患です。肩の関節包や周囲の組織に炎症が起こり、痛みや可動域の制限を引き起こします。40代で発症した場合は「四十肩」とも呼ばれますが、症状や病態に違いはありません。
主な症状としては、以下のようなものがあります:
- 肩や腕の痛み(特に夜間や動かしたときに悪化)
- 肩の可動域制限(腕が上がらない、後ろに回せないなど)
- 日常生活での不便さ(髪を洗う、着替えるなどの動作が困難)
- 安静時にも感じる鈍痛や違和感
五十肩の特徴的な症状として「夜間痛」があり、就寝中に痛みで目が覚めることもあります
。これは急性期に特に強く現れる症状で、痛みのコントロールが重要です。
五十肩は一般的に3つの時期を経て回復する
五十肩は通常、以下の3つの段階を経て回復していきます。各段階での症状の特徴と期間を理解することで、ご自身の回復状況を把握しやすくなります。
回復段階 | 期間 | 主な症状 |
---|---|---|
1. 急性期 | 1〜3ヶ月 | 痛みが強く、肩が動かしにくい時期。炎症が最も強い段階で、夜間痛が特に顕著です。 |
2. 拘縮期 | 1〜6ヶ月 | 痛みは少し和らぎますが、肩の可動域が狭まっている時期。腕が上がりにくい状態が続きます。 |
3. 回復期 | 6ヶ月〜1年 | 痛みはほとんどなくなり、肩の動きも少しずつ回復していく時期。徐々に日常生活の動作が楽になります。 |
これらの期間はあくまで目安であり、個人によって大きく異なる場合があります。軽度の場合は数ヶ月で回復することもありますが、重度の場合は1〜2年かかることもあります。
「痛みのある筋肉は動かさずに前鋸筋だけ、菱形筋だけと狙った筋肉だけを働かせますので痛みがある状態であってもサボリ筋のトレーニングをすることで症状の改善をすることができます」
五十肩の回復段階について理解したところで、次に治療期間に影響する要因を見ていきましょう。
五十肩の治療期間に影響する要因
五十肩の治療期間や回復の速さは、様々な要因によって影響を受けます。以下の要因を理解することで、より効果的な回復を目指すことができます。
1. 症状の重症度
当然ながら、症状が軽い場合は回復も早い傾向にあります。軽度の場合は数ヶ月で回復することもありますが、重度の場合は完全な回復まで1〜2年以上かかることもあります。痛みの強さや可動域制限の程度が大きいほど、回復に時間がかかる傾向があります。
2. 年齢と体の状態
年齢も回復期間に影響します。一般的に高齢になるほど回復に時間がかかる傾向があります。また、全体的な健康状態や筋力、柔軟性なども回復の速さに影響します。日頃から運動習慣がある方は、回復が早い傾向にあります。
3. 治療の開始時期
症状が出始めてから早期に適切な治療を開始することで、回復期間を短縮できる可能性があります
。放置すると症状が悪化し、回復に時間がかかることがあるため、痛みや違和感を感じ始めたら早めに医療機関を受診することをおすすめします。
4. 治療法の適切さ
個人の症状や状態に合った適切な治療法を選択することが重要です。医師や理学療法士の指導のもと、適切なリハビリテーションや運動療法を行うことで、より早く効果的に回復することができます。
五十肩を放置するとなかなか治らないリスク
「五十肩は放っておいても治る」と言われることもありますが、適切な治療を行わないと回復が遅れたり、症状が悪化したりするリスクがあります。
放置するリスク
- 回復期間の長期化
- 症状の悪化(痛みの増加や可動域のさらなる制限)
- 日常生活への支障の長期化
- 肩関節の拘縮(関節が固まってしまう状態)が進行する
- 慢性的な肩の痛みや機能障害につながる可能性
特に痛みや関節の動きの制限が強い場合は、早めに医療機関を受診し、適切な治療を受けることが大切です。
五十肩の効果的な治療法
五十肩の治療法には、症状の段階や個人の状態によって様々なアプローチがあると考えられます。治療法の選択は医師との相談が重要です。以下に主な治療法を紹介します。
1. 薬物療法
急性期の強い痛みに対しては、消炎鎮痛剤の内服や湿布などの外用薬が処方されることがあります。痛みが特に強い場合には、関節内注射(ステロイドやヒアルロン酸)が行われることもあります。
2. 物理療法
温熱療法、超音波療法、電気療法などの物理療法が用いられることがあります。これらは痛みの緩和や血行の促進に効果があります。
3. 運動療法・リハビリテーション
症状の段階に合わせた適切な運動療法やストレッチが重要です。特に拘縮期以降は、肩関節の可動域を徐々に広げるためのリハビリテーションが効果的です。医師や理学療法士の指導のもとで行うことが望ましいでしょう。
回復段階 | おすすめの治療法 |
---|---|
急性期 | ・痛みのコントロール(薬物療法、関節注射など) ・安静(過度な負担を避ける) ・軽度のストレッチ(痛みのない範囲で) |
拘縮期 | ・ストレッチや運動療法の強化 ・肩関節の可動域訓練 ・物理療法(温熱療法など) |
回復期 | ・積極的なリハビリテーション ・日常生活での肩の使用 ・筋力トレーニング ・再発防止のための継続的な運動 |
4. 前鋸筋トレーニング
肩関節の動きをサポートする「前鋸筋」という筋肉のトレーニングが、五十肩の改善に効果的であるという研究結果もあります。前鋸筋は肩甲骨の外側についている筋肉で、肩甲骨の安定性と動きに重要な役割を果たしています。
「肩甲骨の外側にあって、肩関節の動きをサポートしているのが前鋸筋です。この筋肉は肩甲骨の外側についていて、肩甲骨を外側と上向きにしてくれる動きをしてくれます」
前鋸筋が弱ると、肩こりや首こり、さらには五十肩の症状悪化にもつながる可能性があります。痛みのある部分を無理に動かさず、前鋸筋など特定の筋肉を効果的に鍛えることで、症状改善に役立つとされています。
5. 手術療法
保存的治療で効果が見られない重度の症例では、手術が検討されることもあります。しかし、多くの場合は保存的治療で改善が見られるため、手術になるケースは比較的稀です。
患者の声:五十肩の回復体験
50代の田中さん(仮名)は、右肩の五十肩に悩まされていました。「最初は肩こりだと思っていましたが、次第に腕が上がらなくなり、夜も痛みで眠れないほどになりました。整形外科を受診したところ、五十肩と診断され、適切な治療を始めました。痛み止めとリハビリを3ヶ月続けたところ、徐々に痛みが和らぎ始め、6ヶ月後には日常生活にほとんど支障がなくなりました。早めに受診して良かったです」と話しています。
五十肩を早く治すためのポイント
五十肩をより早く効果的に治すためには、以下のポイントを意識することが大切です。
1. 早期の医療機関受診
症状が出始めたら早めに整形外科を受診しましょう。適切な診断と早期治療が回復への近道です。特に痛みが強く、日常生活に支障がある場合は、迅速な対応が望ましいです。
2. 医師の指示に従った適切な治療
自己判断で治療を中断したり、過度な運動をしたりせず、医師の指示に従った適切な治療を継続することが重要です。特に急性期には無理な動きを避け、徐々に活動を増やしていくアプローチが効果的です。
3. 適度な運動と休息のバランス
安静だけでは治らないことも多いため、痛みのない範囲での適度な運動が重要です
。特に炎症が落ち着いた後は、肩関節の可動域を広げるための運動やストレッチが効果的です。ただし、痛みを伴うような無理な動きは避けましょう。
4. 日常生活での工夫
痛みを悪化させないよう、日常生活でも以下のような工夫をしましょう:
- 痛みのある腕に負担をかけないようにする
- 睡眠時は患側を下にしない
- 高い場所の物を取る際には踏み台を使うなど、工夫する
- 着脱しやすい服を選ぶ
5. 専門家によるリハビリテーション
理学療法士などの専門家の指導のもとでのリハビリテーションは、回復を早める効果があります。特に拘縮期以降は、専門的なリハビリテーションが可動域の改善に役立ちます。
五十肩の改善に役立つストレッチと運動
医師の許可を得た上で、以下のようなストレッチや運動を取り入れると、症状の改善に役立つ場合があります。ただし、痛みを感じる場合は無理をせず、医師や理学療法士に相談しましょう。
1. 振り子運動
テーブルなどに健側の手をついて支え、患側の腕を自然に下げてぶらんと垂らします。そのままゆっくりと前後左右に振り子のように動かします。痛みのない範囲で行うことが重要です。
2. 壁のぼり運動
壁に向かって立ち、指先を壁につけた状態で、少しずつ手を上に這わせるように動かします。可能な範囲で少しずつ高く上げていくことを目指します。
3. 前鋸筋トレーニング
肩関節の動きをサポートする前鋸筋を鍛えることで、肩の機能回復を促進できる可能性があります。手のひらを前にしてグーを作り、爪を見せるように拳を内側に向けながら下に力を入れる動作などが効果的です。
「なぜ前鋸筋が弱くなると首こりや肩こりが起きてしまうのかというと、この前鋸筋という筋肉が弱ってしまうと外側に肩甲骨を引っ張る力が弱くなってしまって、その他の外側に引っ張る筋肉、小胸筋という筋肉がガチガチに働いてしまうからです」
五十肩の予防と再発防止
五十肩を予防したり、回復後の再発を防止したりするためには、以下のような点に注意しましょう。
1. 正しい姿勢の維持
猫背などの不良姿勢は肩周囲の筋肉に負担をかけるため、正しい姿勢を心がけましょう。特にデスクワークが多い方は、定期的に姿勢をチェックし、適度に休憩を取ることが大切です。
2. バランスの良い筋力トレーニング
肩周りの筋肉をバランスよく鍛えることで、肩関節の安定性を高め、五十肩の予防につながります。前鋸筋や菱形筋など、肩甲骨の動きをサポートする筋肉のトレーニングが特に重要です。
3. 適度なストレッチ
日常的に肩のストレッチを行うことで、柔軟性を維持し、五十肩の予防につながります。特に長時間同じ姿勢を続けた後には、軽いストレッチを行うと良いでしょう。
4. 過度な負担を避ける
肩に過度な負担をかけるような動作や重い物の持ち上げなどは、可能な限り避けるようにしましょう。特に回復期以降も、急に無理な動きをすることは控えたほうが良いでしょう。
五十肩でお悩みの方は、肩の痛みの種類と原因についても知っておくと良いでしょう。また、肩のストレッチ方法や痛みの管理法も参考になります。
五十肩に関する詳しい情報は、日本整形外科学会のサイトも参考になります。
五十肩に関するよくある質問
Q. 五十肩は放っておいても自然に治りますか?
A. 五十肩は放置していても時間の経過とともに自然に回復する傾向がありますが、適切な治療を受けない場合、回復に長い時間(1〜2年以上)がかかることがあります。また、適切な治療を受けることで、回復期間の短縮や症状の軽減が期待できます。特に痛みや可動域制限が強い場合は、医療機関を受診することをおすすめします。
Q. 五十肩になったらどんな治療を受ければいいですか?
A. 五十肩の治療は症状の段階や個人の状態によって異なります。一般的には、急性期には消炎鎮痛剤や関節注射などによる痛みのコントロール、拘縮期以降はストレッチや運動療法による可動域の改善が中心となります。整形外科を受診し、個人の症状に合った適切な治療法を相談することをおすすめします。
Q. 五十肩と診断されたけど手術は必要ですか?
A. 多くの五十肩は保存的治療(薬物療法、リハビリテーションなど)で改善するため、手術が必要になるケースは比較的稀です。6ヶ月以上適切な保存的治療を行っても症状の改善が見られない場合や、痛みが非常に強く日常生活に大きな支障がある場合などに、手術が検討されることがあります。手術の必要性については、医師と十分に相談することが大切です。
Q. 五十肩の痛みを和らげる方法はありますか?
A. 五十肩の痛みを和らげる方法としては、医師の処方による消炎鎮痛剤の内服や湿布の使用、温熱療法(温かいシャワーを当てる、温かいタオルを当てるなど)、痛みのない範囲での軽いストレッチなどがあります。特に夜間痛がある場合は、枕の高さを調整したり、患側を下にして寝ないようにするなどの工夫も効果的です。ただし、自己判断での対処には限界があるため、症状が強い場合は医療機関を受診することをおすすめします。
Q. 五十肩と肩こりの違いは何ですか?
A. 肩こりは主に肩や首の筋肉の疲労や緊張によって起こる症状で、肩周りの筋肉の凝りや痛みが特徴です。一方、五十肩(肩関節周囲炎)は肩関節の関節包や周囲の組織に炎症が起こる疾患で、肩の痛みだけでなく、著しい可動域制限(腕が上がらない、後ろに回せないなど)を伴うのが特徴です。また、肩こりは休息やマッサージで比較的短期間に改善することが多いですが、五十肩は長期間(数ヶ月〜数年)かかることが一般的です。症状の違いが分からない場合は、医療機関で適切な診断を受けることをおすすめします。
Q. 前鋸筋のトレーニングは五十肩にどう効果がありますか?
A. 前鋸筋は肩甲骨の安定性と動きをサポートする重要な筋肉です。この筋肉が弱ると肩関節の動きに影響し、肩こりや首こり、さらには五十肩の症状悪化にもつながる可能性があります。前鋸筋のトレーニングを行うことで、肩甲骨の位置や動きが改善され、肩関節全体の機能回復を促進する効果が期待できます。特に痛みのある筋肉を直接動かさずに、前鋸筋など特定の筋肉を効果的に鍛えることで、五十肩の症状改善に役立つとされています。ただし、トレーニングを始める前に医師や理学療法士に相談することをおすすめします。
Q. 五十肩は何歳くらいでなりやすいですか?
A. 五十肩は名前の通り、主に40〜60代の方に多く見られます。特に50代での発症が多いことから「五十肩」と呼ばれていますが、40代で発症した場合は「四十肩」と呼ばれることもあります。これは年齢とともに肩の組織の柔軟性が低下することや、長年の使用による自然な摩耗などが関係していると考えられています。ただし、稀に30代や70代以上の方でも発症することがあります。